米国とイスラエルの国旗を燃やすフーシ派の支持者たち(4月18日イエメンで、写真:AP/アフロ)

 2025年3月26日、米トランプ政権の高官、なかんずく安全保障を担当する高官が、私用のスマートフォンでグループチャット「Signal(シグナル)」を使って米軍によるイエメンの反政府組織フーシへの軍事作戦の機密情報をやりとりしていたことが明らかになった。

 この事案は「ウォーターゲート」になぞられて「シグナルゲート」と呼ばれる。

 米紙ニューヨーク・タイムズなど欧米主要メディアは、国家安全保障の根幹を揺るがす問題であるとして批判を強めている。

 なお、米国防総省の監察総監室は、複数議員からの要請に応じて、4月3日に調査を開始した。

 この不祥事が発覚したのは、このグループチャットに、米誌アトランティックの編集長であるジェフリー・ゴールドバーグ氏が招待されていたからである。

 マイケル・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)が、ゴールドバーグ氏を誤って招待したとされている。

 3月24日、ゴールドバーグ氏は、自分がグループチャットに追加されていたことを公表した。

 しかし、その時はチャットの内容については「敵対者が入手した場合、米国軍人と諜報員に危害を加えるために悪用される可能性がある」として、チャットの一部だけを公表し、具体的な詳細の公表を控えていた。

 チャットに参加していた政府高官は、それぞれ「戦争計画を送っていない」「シグナルで機密資料を共有していない」「シグナルでの通信は完全に許可され合法的なものであり、機密情報は含まれていなかった」などと責任回避の発言を繰り返した。

 これをを受けてゴールドバーグ氏は、「人々が実際のメッセージを見て自分自身の結論を出すべきだと確信した」とし、3月26日、アトランティック誌に、グループチャットでやり取りしたメッセージのすべてを公開した。

 公開された内容については後述する。

 イエメン空爆に関するメッセージのすべてが公開されたのを受け、ホワイトハウスは3月26日、強く反発した。

 ドナルド・トランプ大統領は、アトランティック誌の報道は「すべて魔女狩り」だとし、同誌を「失敗した雑誌」と断じた。

 また、ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官は3月26日の記者会見で、ゴールドバーグ編集長を直接批判した。

「反トランプの憎しみを抱えた人」だとし、「『シグナル』に関するデマ」を広める「メディアのプロパガンダ推進者」だと非難した。

(出典:BBC「米政府、高官チャット全公開に強く反発 ジャーナリストを攻撃」2025年3月27日)

 米誌アトランティックが公開した内容は、通常であれば一般公開することなど考えられないような極めてセンシティブな軍事機密情報である。

 このチャットには、J・D・バンス副大統領、マイケル・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)、ピート・ヘグセス国防長官、CIAのジョン・ラトクリフ長官、マルコ・ルビオ国務長官、トゥルシー・ギャバード国家情報長官、スコット・ベッセント財務長官、スティーブン・ミラー副主席補佐官など錚々たるメンバー参加していた。

 機密情報の取扱いに最も慣れているはずの国防長官や、CIA長官、国家情報官がチャットに参加していながら、誰もこのチャットの問題を指摘しなかった。

「安全保障分野の素人の集まり」と言われても仕方ない。

 この不祥事が発生した原因には「安全保障分野の素人の集まり」の他に、「リバタリアンの集まり」があると筆者は見ている。これらの原因については後述する。

 以下、初めにシグナルの脆弱性について述べ、次にシグナルで共有された情報の内容について述べ、次にシグナルゲートが発生した原因について述べ、最後に上院情報委員会の公聴会におけるCIA長官・国家情報官の発言と米国防総省による調査について述べる。