2.シグナルで共有された情報の内容
2025年3月15日、ピート・ヘグセス国防長官は、マイケル・ウォルツ大統領補佐官が立ち上げた「Houthi PC small group」を通じて、イエメンのフーシ派への空爆計画の情報を発信した。
この情報は、マイケル・ウォルツ氏が誤って招待したとされる米誌アトランティックのジェフリー・ゴールドバーグ編集長にも送信された。
この情報をゴールドバーグ氏が受け取った約2時間後に実際に攻撃が実行された。
付言するが、米ニューヨーク・タイムズ紙は4月20日、ヘグセス米国防長官は、「Houthi PC small group」とは別に、「シグナル」のグループチャット「国防|チームハドル」を使い、自分の妻や弟、弁護士など十数人が参加するグループチャットで、軍事作戦に関わる情報を共有していたと報じた。
(1)フーシ派拠点への空爆計画
米国と英国は3月22日、イエメンの反政府武装組織フーシ派の拠点を空爆した。
米国防総省によると、この日の空爆ではフーシ派の地下貯蔵庫や、ミサイルおよび偵察に関連した施設など8か所を攻撃した。
米国防総省は英国や支援各国との共同声明を発表し、フーシ派に対して「相応かつ必要な追加攻撃」を実施したと説明した。
英国防省によると、英空軍の「タイフーン」戦闘機4機も米軍に加わった。空中給油機「ヴォイジャー」2機が支援したという。
英戦闘機は精密誘導爆弾を使い、イエメンの首都サヌアの飛行場に近い軍事拠点2か所の標的を攻撃したという。
それら標的となった2か所は、紅海の国際海運に対する継続的な攻撃を可能にするために利用されていたと、英国防省は説明した。
英国防省は、「英国の標準的な慣行に従い、民間人が犠牲になるリスクを最小限にするため、攻撃計画では非常に綿密な分析を実施した。そうしたリスクをさらに軽減するため、私たちの航空機は過去の攻撃と同様、夜間に爆撃を行った」とした。
(出典:BBC「米英両軍、イエメンのフーシ派拠点を新たに空爆」2024年1月23日)
(2)アトランティック誌に公開された情報
既述したが、3月26日、ゴールドバーグ氏は、米軍によるイエメンの反政府組織フーシへの攻撃をめぐるグループチャットでやり取りしたメッセージのすべてをアトランティック誌に公開した。
公開された情報は次の通りである。
原文 | 筆者訳 |
---|---|
Pete Hegseth TIME UPDATE |
ピート・ヘグゼス米国防長官 時間更新 |
TIME NOW(1144et): Weather is FAVORABLE. Just CONFORMED w/CENTCOM we are a GO for mission launch. | 現在時刻(11時44分東部時間): 天候は良好。作戦開始のゴーサインが出たことを中央軍に確認した。 |
1215et: F-18s LAUNCH(1st strike package) | 12時15分東部時間: F-18発進(第1次攻撃隊) |
1345: "Trigger Based" F-18 1st Strike Window Starts (Target Terrorist is @his Known Location so SHOULD BE ON TIME)― also, Strike Drones Lauch (MQ-9s) | 13時45分: 「標的の存在をトリガーとする攻撃(トリガーベース)」 F-18の第1撃攻撃時間帯(ウィンドウ)開始(標的のテロリストは既知の場所にいる。攻撃機は時間どおりに到着する)。さらに攻撃ドローン「MQ-9」リーパーも発進。 |
1410: More F-18s LAUNCH (2nd strike package) | 14時10分: さらにF-18発進(第2次攻撃隊) |
1415: Strike Drones on target (THIS IS WHEN THE FIRST BOMBS WILL DEFINITELY DROP, pending earlier "Trigger Based" target) | 14時15分: ドローンが目標上空に到着(最初の爆弾は、第1撃において攻撃が保留された標的に確実に投下されるだろう) |
1536: F-18 2nd Strike Start-also, first sea-based Tomahawks launched. | 15時36分:F-18第2次攻撃開始。さらに最初の海上配備型「トマホーク」が発射された。 |
(出典:CNN「フーシ派攻撃の進行状況をやり取り 米誌がチャット内容を追加で公開」2025年3月27日)
(3)筆者コメント
万一、2時間前に空爆を知ることができれば、敵は防空態勢を強化し、攻撃に備えることができる。
特に、主要な標的であるテロリストは行動を変更するかもしれない。
結果、作戦は失敗に終わり、かつ多くの友軍の兵士が犠牲になるかもしれない。
また、「標的のテロリストは既知の場所にいる」との情報は、現地にエージェント(協力者)がいることを露呈しており、そのエージェントの命を危険にさらすことになる。