おわりに
米国の調査会社「ユーラシア・グループ」は、恒例となっている「今年の10大リスク」を2025年1月6日に発表した。
第1のリスクとして「深まるGゼロ世界(G-Zero world)*1の混迷」を挙げた。
*1=Gゼロ世界とは、欧米の影響力低下と、発展途上国政府の国内重視により生じた国際政治における権力の空白のこと。
第2位にトランプ氏の支配、第4位にトランプノミクスを挙げた。それぞれの内容は次の通りである。
▲深まるGゼロ世界の混迷
世界的な課題への対応を主導し国際秩序を維持する国家は存在しない状態で地政学的な不安定が常態化する。
新たな世界大戦すら起きるリスクはかつてないほど高まっている。1930年代や冷戦初期に匹敵する危険な時代に突入しつつある。
▲トランプ支配
司法省やFBIといった政治的に権力を持つ組織にトランプ氏に忠誠を誓う人物を据えようとしている。
行政権力に対する独立したチェック機能が低下し法の支配が弱体化する。
また政治的に近い企業家を優遇すれば市場競争ではなく権力への近さが成功を左右するシステムが生まれる可能性がある。
▲トランプノミクス
関税の大幅な引き上げは、サプライチェーンを混乱させ企業と消費者のコストを押し上げる。
また不法移民の大量送還などによって米国の労働力が減少し賃金や物価が上昇するだろう。インフレ率の上昇と成長の減速で経済の強さを損なうことになるだろう。
「Gゼロ」について、ユーラシア・グループは「世界的なリーダーシップの欠如は危機的なレベルまで深刻化している」と強調している。
地政学的な不安定が常態化し、世界的な安全保障体制と経済体制が弱体化。「力の空白が新たに生まれて拡大し、ならず者国家が勢いづき、事故、誤算、紛争の可能性が高まるだろう」と予測し、新たな世界大戦が発生するリスクは、私たちが生きてきた中で見たことがないほど高まっている」と結論付けている。
また、実際に米国は長年担ってきた「世界の警察官」「自由貿易の擁護者」「世界的な価値観の守護者」という役割を放棄する動きを加速させ、「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」をこれまでになく強く打ち出している。
他方、日本は2023年に国内総生産(GDP)でドイツに抜かれて世界4位に転落した。まもなくインドにも追い抜かれようとしている。
国力低下が目立つなか、「Gゼロ」の世界で、日本はどう行動したら良いのであろうか。
筆者は、日本は、自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値を指針として、そして、同じ価値観を共有する欧州の民主主義国家と連携して行動すべきであると考える。
そこにウクライナ支援が含まれるのは当然である。