4.二国間の停戦交渉の見通し

(1)戦争終結の流れ

 伝統的な戦争終結方法は、停戦交渉、停戦協定の締結、和平交渉、平和条約(又は講和条約)という経緯をたどるとされる。

 ここでの停戦協定は、和平交渉の間の敵対行為を停止させる軍事的側面にとどまり、和平交渉が決裂すれば、敵対行為が再開される。また、停戦には全般的停戦と部分的停戦がある。

 これに対し、平和条約は、領土や賠償など武力紛争の政治的・経済的・社会的側面を包括的に扱うものであり、和平交渉が成功した結果として締結され、これにより戦争は終結する。

 ちなみに、「停戦」であるが、「停戦」と「休戦」は、同じ意味で使われることも多く、違いはそれほどはっきりしていない。

(2)ウクライナ戦争の和平プロセス

①停戦交渉:停戦のため主要件に合意する。
②停戦協定の締結:敵対行為の停止
        :敵対軍の隔離
        :停戦監視を任務とした国連平和維持軍の配置
③和平交渉:平和条約のため主要件、特に領土の割譲などに合意する。
④平和条約の締結:内容は条約によって異なるが、一般に戦争終了の宣言、外交関係,平和的交通の回復,捕虜の交換などのほか、特に領土の割譲、賠償の支払いなどが規定される。

 さて、ウクライナ戦争を和平プロセスの第1ステップが停戦交渉になるか和平交渉になるかは、戦況次第である。

 ウクライナが攻勢にでて大部分のロシア軍をウクライナ領域から撤退させた場合は和平交渉が開始される可能性大きい。

 一方、ウクライナの攻勢にもかかわらず、ロシア軍がほぼ現在の占領地を維持する場合は停戦交渉が開始される可能性が大きい。

 現状では、停戦交渉となる公算が高い。

(3)ロシア・ウクライナ停戦交渉の見通し

ア.仲介者

 本来、和平交渉は、当事国が直接交渉すればよいのであるが、ゼレンスキー氏は、ロシア軍がウクライナ領から撤退しない限りロシアと対話しないとの立場を明言しているので、仲介者がいないと交渉は始まらないであろう。

 仲介者は中立かつ公正でなければならない。そこで、筆者は国連とトルコによる仲介を期待したい。

 2023年7月、国連とトルコの仲介で、2022年2月のロシアのウクライナ侵略以降、ウクライナの穀物輸出が途絶えていたが、国連、トルコ、ウクライナ、ロシアによる4者合意によりウクライナ産穀物等の黒海を通じた輸出が再開された。

 この4者合意による穀物輸送の航路の安全確保というのはある意味で休戦協定である。

 国連とトルコには、この4者合意を取りまとめた経験を生かして、和平交渉にも頑張ってほしい。

イ.早急に開始すべき部分的停戦協定

 ロシアによるウクライナ侵攻後、ザポリージャ原発は2022年3月からロシア軍に占拠されている。

 占拠された当初は一部の原子炉が稼働中であったが、2022年9月には、6基の原子炉すべてが停止した状態になっている。

 原発のあるザポリージャ州では双方による攻防が続いており原発の安全が確保されるかは不透明な情勢である。

 国際社会は、できる限り早くザポリージャ原発の安全確保のためザポリージャ原発周辺地域の停戦交渉を開始しなければならない。

 この停戦交渉の仲介役も国連(IAEA=国際原子力機関を含む)とトルコに期待したい。

 この際、交渉対象にはチェルノブイリ原発も含めるべきである。

 原子力周辺地域に限定した停戦協定であれば、ロシアとウクライナ両者の妥協点を見つけることも可能であろう。

 原子力事故の怖さを知っている日本が、この停戦交渉の早期開始を国際社会に訴えるべきである。

 筆者は、この停戦が成立した場合には、国連は特別総会決議により第1次国際連合緊急軍のような平和維持部隊を派遣すべきであると思っている。

ウ.停戦交渉の主要協議事項

 主要協議事項は、①捕虜と強制移住者(子供を含む)の返還、②停戦ラインの設定、③停戦を監視する機関の設定となるであろう。

 そのほか、ウクライナのNATO加盟が協議事項に取り上げられる可能性がある。

 ①については、捕虜等に対し本国への帰国を希望するかどうかについて直接確認するため中立な送還委員会を設立する。

 ②については、ウクライナは2022年2月24日の侵攻開始時の両軍の接触線を停戦ラインにすることを要求するであろう。

 一方、ロシアは停戦交渉開始時に両軍が対峙している接触線を停戦ラインにすることを要求するであろう。

 ここで、仲介者である国連、トルコの役割が重要である。

 国際法を順守するようにロシアを説得できるかどうかである。両者が譲歩しない場合は、停戦交渉は決裂するであろう。

 そこで、筆者は、交渉の決裂を防ぐために、ウクライナ側は現在ロシアが占領している領土については、当面ロシアが支配することを認め、将来、外交手段で問題解決を図ることを提案し、領土問題を事実上、棚上げすべきだと考える。

 ③について、英仏が主導する有志国連合による停戦後のウクライナへの平和維持部隊の派遣構想があるが、ロシアはこれに強硬に反対するだろう。

 筆者は、国連は「平和のための結集」決議に基づく緊急特別総会決議により1956年に創設された第1次国際連合緊急軍のような平和維持部隊を派遣すべきであると考えている。

 日本もこの平和維持軍へ要員を派遣するべきである。

 その他、ロシアはウクライナのNATO加盟に反対するであろう。

 ウクライナはここは譲歩して、当面はNATOに加盟しないと回答すべきである。

 なぜなら、ウクライナはこれまでに「2国間安全保障協定」を、日本を含む17か国と締結した。

「2国間安全保障協定」は、締約国は武器や技術の輸出、軍事訓練などでウクライナの防衛力を高める。ウクライナが将来に再び攻撃を受けた際は政治、経済、軍事面で支援するというものである。

 筆者は、NATOに非加盟でも、「2国間安全保障協定」によりウクライナの安全は確保されるであろうと見ている。

 また、トランプ大統領の言う、「鉱物資源の開発に米国が関与することがロシアの行動を思いとどまらせ、ウクライナの安全を保証する」ことも有効であるかもしれない。