その話を聞いたのは、夏のオリンピックが北京で開催される以前だったが、そこで不覚にも脳裏をよぎったのは、さすがに中国でもパンダのような希少動物を保護すること、環境保全に対する意識レベルが庶民の間でも高いのではないか、という思い込みだった。

 しかし、動物市場の実状に照らせば、にわかには信じ難いところもであったので、ひょっとしたらパンダというのは食べても異様に不味いのではないか、とも考えた。歴史ある中華料理でも太刀打ちのできない強烈な味がするのではないか、と。

 そこで理由を尋ねると、彼はこう答えた。

「パンダを食べると、死刑になるから」

 いかにも権威主義国家の庶民感覚だった。それでも、その権威主義によってパンダは手厚く保護されている(かつてはパンダの密猟で実際に死刑になった人もいたが、1997年以降、法律が改正され、密猟者は死刑ではなく20年の懲役刑が科せられることになった)。

涙の絶叫で見送られたシャンシャン

 今月21日には、上野動物園で生まれた5歳メスの「シャンシャン」が中国に返還された。翌22日には、和歌山県白浜町のアドベンチャーワールドから30歳オスの「永明」、8歳メスの双子「桜浜」と「桃浜」が返還された。

 シャンシャンが上野動物園から送り出される時には、沿道に大勢のファンが集まり、姿も見えないトラックの荷台に向かって手を振ったり、涙を流しながらシャンシャンのグッズをかざして絶叫したりする光景が見られた。それだけ大騒ぎだった。4頭のパンダは空路で四川省の省都・成都に到着してから、陸路で省内の保護研究施設に送られる。

2月19日、中国への返還前に一般公開された上野動物園のシャンシャン(写真:望月仁/アフロ)

 松野博一官房長官は24日の記者会見で、4頭のパンダが成都に到着したことについて、「中国でも人々に愛され、健やかに過ごされることを願う」とまで述べている。