「ビジネスと人権」は自社だけでなく、サプライチェーンに関わる(写真:写真:The KonG/shutterstock)
「ビジネスと人権」は自社だけでなく、サプライチェーンに関わる(写真:The KonG/shutterstock)

 ビジネスにおける人権尊重の取り組みについて議論する最大規模の国際会議「国連ビジネスと人権フォーラム」が、2024年11月25日から27日にかけてスイス・ジュネーブで開催された。このフォーラムは、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下、「指導原則」と記載)が採択された翌年の2012年から始まり、今年が13回目の開催となる。フォーラムに現地参加した筆者が議論の内容などをレポートする。(五味ゆりな:株式会社オウルズコンサルティンググループ)

 国連ビジネスと人権フォーラムには、世界各国の政府、企業、先住民コミュニティ、労働組合、弁護士、研究者等が集い、現地とオンラインから合わせて約4000人が参加した。このうち、ビジネスセクター(企業など)とソーシャルセクター(NGOなど)からの参加者がそれぞれ約30%を占めた。

 また、今年の特徴として、参加者同士の意見交換やネットワーキングを促進するセッションが新設された点が挙げられる。フォーラムの「マルチステークホルダーによる対話の場」としての役割が一層強化された形だ。

今年のテーマになった「施策のスマートミックス」とは?

 今年のフォーラムでは、「ビジネス活動における人権保護のための『施策のスマートミックス』の実現(Realizing the “Smart Mix of Measures” to protect human rights in the context of business activities)」がテーマに据えられた。

「スマートミックス」とは、法令などの強制的な措置と、各国政府による国別行動計画(National Action Plan:NAP)やガイドラインなどの自主的な取り組みを効果的に組み合わせる考え方を指す。

 近年、欧州では英国の現代奴隷法、ドイツのサプライチェーン・デュー・ディリジェンス法など、企業に人権尊重を義務づける法律が次々と導入されている。さらに今年7月には企業持続可能性デューディリジェンス指令(CSDDD)がEU全体で発効に至り、ルールによる強制力が一段と強まっている。

 一方、日本やアジア諸国などでは、NAPを通じた自主的な取り組みが進められている。こうした状況を受けて、改めて「スマートミックス」の重要性に注目が集まっているのが現状だ。

 初日の開会セッションでは、国連事務次長補・国連グローバル・コンパクト事務局長兼CEOのサンダ・オジアンボ氏が「一部の地域では強制的なデューディリジェンスや人権保護の取り組みが進んでいるが、他の地域では遅れが見られ、ルールやその運用は断片的だ。ただし、この課題は同時に大きな機会でもあることを忘れてはならない」と述べ、これまでの国家や企業の取り組みの成果や失敗を改めて振り返る時期にあることを示唆した。

 また、フォーラム全体を通じて、形式的な人権対応に終始せず、「真に意味のある」人権尊重の取り組みを推進することの重要性が繰り返し強調された。