BTS(防弾少年団)のメンバー・V。彼を応援する中国のファンは誕生日を祝うために集めた資金で小学校を設立した(写真:アフロ)BTS(防弾少年団)のメンバー・V。彼を応援する中国のファンは誕生日を祝うために集めた資金で小学校を設立した(写真:アフロ)

 近年、K-POP等のグローバルなファンダム(ファンコミュニティ)を中心に、「推し」の名義で巨額の寄付をしたり、社会変革を促すアクティビズムを巻き起こしたりする新たな「推し活」の形が台頭している。その影響力は、社会課題解決の現場でも見逃せないものになりつつある。

 本連載の最終回となる今回は、社会変革の大きな原動力となりえる「ファン・アクティビズム」と、その未来について考察する。(丹波 小桃:株式会社オウルズコンサルティンググループ)

【第1回】可処分所得の4割を吸い尽くす推し活ブーム、その裏で増える推し活依存の深刻度
【第2回】「推し活依存」から消費者をどう守る? ギャンブル・ゲーム業界に学ぶ依存症対策
【第3回】「推し活」をソーシャル・グッドにつなげるには……「エシカル推し活」が秘める大きな可能性

寄付市場を揺るがす「推し活マネー」のポテンシャル

 BTS(防弾少年団)のメンバー・Vを応援する中国のファンたちが、Vの誕生日を祝うために集めた資金で、彼の名前を冠した小学校を設立した──。2021年、こんなニュースがK-POP界で話題を呼んだ。

 韓国では以前から、アイドルの誕生日にファンが資金を出し合い、駅やバス等の公共空間に「推し」の広告を掲載する応援活動が定着してきた。その活動がさらに進化して、近年では、新たな誕生日の祝い方として、集めた資金を「推し」の名義で社会貢献活動に寄付することで「名誉」を贈ろうとする動きが出てきている。

 冒頭の例は、BTSメンバー・Vを応援する中国のファンクラブ「Baidu Vbar」が、彼の誕生日にわずか1分間で5000万円の募金を集めるというK-POP界の新記録を樹立し、集めた資金を学校建設に使った例だ。

 この大手ファンクラブは他にも、子どもたちの通学のための道路の整備など、社会貢献のための寄付を多数行っている。「社会のため」にお金を使うことこそが最も「推しのため」になる、という価値観を持つファンダムが現れ始めているのだ。

 誕生日の寄付に限らず、「推し」が発信した社会課題への関心に共鳴する形で、ファンが寄付活動を主導する例もある。

 2015年、東方神起のメンバー・ユノがドキュメンタリー番組でガーナのカカオ農園を訪れ、児童労働の実態に心を痛めながら「ガーナの子どもたちに関心を寄せてほしい」と発信すると、ファンから一挙に寄付金が集まり、ガーナに「ユノ・ユンホ教育センター」が設立された。

 この共感の輪は日本国内のファンにも広がった。ガーナ等で児童労働の撤廃に長年取り組んでいる日本のNGO・ACEのSNSには、番組が放映された後、過去に類を見ないほど多くのリアクションがあったという。アーティストの影響力によって、児童労働問題に関心を持つ人が急速に増えたのだ。

 近年のSNSなどの発展で、ファンダムが社会課題に関してファンドレイズ(寄付集め)を行う能力は一層強化されている。