「推し」にも社会貢献を求め始めたファンダム

 例えば韓国では、社会の模範となる活動をする芸能人をソーシャルテイナー “Socialtainer(Social+ Entertainer)”という造語で称える風潮があり、多くの人が、憧れの対象である芸能人に対して高い倫理観や利他的な行動を求めている。

 大手芸能事務所SMエンターテインメントでは、所属するアイドルや練習生の教育カリキュラムに人権や気候変動について学ぶプログラムを組み込み、NGOと協働したり、ボランティア機会を設けたりと、ソーシャルテイナーの育成に力を入れている。

 一部のファンにとって、「推し」への期待はパフォーマンスの質やエンターテインメント性だけでなく、社会に貢献しているか、模範的な振る舞いが伴っているかといった点にまで及んでいるのだ。

「推し」の社会貢献活動を称えると同時に、その言動に監視の目を光らせるファンダムもある。BTSのメンバー・ジョングクが2023年にリリースした曲「3D」において、共演アーティストによる歌詞が「アジア人女性への蔑視だ」と問題になった際、ファンの間では所属事務所やレーベルに謝罪と公式声明を求める運動が巻き起こった。

 同様に、欧米でもアーティスト本人の言動に対して直接働きかける動きがSNSを中心に盛んになっている。

 イスラエルのガザ攻撃に関して沈黙している著名人のアカウントをブロックするよう呼びかける、SNS上の反戦ムーブメント「#blockout2024」はその代表例だ。

 悲惨な人道危機を前に、自分たちの影響力を積極的に活用しようとしない著名人たちへの不満の表れであり、このムーブメントでテイラー・スウィフトやキム・カーダシアンは何十万人ものSNSフォロワーを失ったとされる。

 現代のファンたちは、一方的に供給されるコンテンツを受動的に消費し、盲目的に応援するのではなく、「推し」の活動が道徳や倫理に反すると判断した際には積極的に正そうと行動を起こす。ここに、「推し」とファンとの双方向的な新たな関係性が生まれている。

 アーティストやマネジメント企業にとって、ファンダムは一番の味方であると同時に「厳しい監視役」でもあるのだ。