音楽業界でも脱炭素の動きが進みつつある(写真:Melinda Nagy/shutterstock)音楽業界でも脱炭素の動きが進みつつある(写真:Melinda Nagy/shutterstock)

【第1回】可処分所得の4割を吸い尽くす推し活ブーム、その裏で増える推し活依存の深刻度
【第2回】「推し活依存」から消費者をどう守る? ギャンブル・ゲーム業界に学ぶ依存症対策

 過去2回の本連載で解説したように、限度を超えた「推し活」には様々なリスクや弊害がある。ただ、この莫大なエネルギーと熱量を「社会に良い」「エシカルな」方向に向けられれば、社会課題の解決につながる可能性があることも確かだ。

 今回は、社会にポジティブなインパクトを生み出す「エシカル推し活」の可能性を検討する。(丹波 小桃:株式会社オウルズコンサルティンググループ )

「推しのためなら」経済をも動かす熱量の向かう先

 第1回「可処分所得の4割を吸い尽くす推し活ブーム、その裏で増える推し活依存の深刻度」でも触れたように、「推し活」の代表たるアイドル・アニメの国内市場は併せて4000億円を超えた。「推し」がいる人は可処分時間・所得のいずれも4割近くを「推し活」にあてており、時間的にも経済的にも日常生活になくてはならないものとなっている。

 この傾向は特に若い世代で目立ち、Z世代を対象とした調査では、回答者の半数以上が月に5000円~3万円程度を推し活にあてているという。彼らの毎月の出費のうち、CDなどを含む「グッズ代」が全体の半数以上を占め、次いで「チケット代」等のイベント参加費が続く。「グッズを買う」という消費活動が、推しへの「応援の気持ち」の体現として定着していることが分かる。

 各社は、この勝機を逃すまいと「推し活」を支援するグッズやサービスを次々に開発している。

 例えば、サンリオは「#推しのいる生活」というテーマのもと、ライブやイベントの「現場」を盛り上げる商品を多数展開している。うちわやトレカ(フォトカード)のケース、ネームタグなど、手持ちの推しグッズとサンリオキャラクターをカスタマイズして楽しめる商品が、推し活当事者である社員の目線で開発されているという。

 また、首都圏のファッションビルでは、期間限定のアニメやアイドルとコラボレーションしたカフェが人気を博し、全国各地から集まったファンたちが連日長蛇の列をなす。

 一方で、消費活動の拡大による環境や社会への悪影響は、他のあらゆる企業活動と同様に、「推し活」でも決して無視できないテーマだ。

 グッズの大量生産・消費・廃棄による環境への負荷、安価なグッズを短納期で大量に生産するために製造現場にかかる負荷、ライブやイベント開催時の電力消費や遠方から集まるファンの移動に伴うCO2排出など、見過ごせない課題が多く存在する。

 特に若い世代の間では、「人や地球環境、社会に配慮すること」=「エシカル(倫理的)」が重要な価値観として広まり始めている。Z世代を対象とした調査では、「価格が高くなったり不自由になったりしても、消費行動を通じて社会の課題解決に貢献したい」と考える人の割合が、「貢献しなくていい」と考える人の割合を上回るという結果も出ている。

 このような価値観を持つ世代は当然、「推し活」においてもエシカルでありたいと考えるはずだ。市場が急拡大する今こそ、「推し活」消費をいかにエシカルに転換できるかが問われている。