フォーラムで示された「真に意味のある人権尊重」への道筋
今回のフォーラムでは、国際的な競争環境の公平性を保ち「対等な市場(Level Playing Field)」を形成するために必要なルールのあり方に注目が集まった。特に、欧州で制定されたCSDDDの施行に向けて、企業がどのように実効的に取り組みを進めるべきかに強く焦点が当てられていた。
CSDDDの直接的な適用対象は欧州域内の大企業が中心だが、実際にはそのバリューチェーン全体に影響を及ぼし、欧州域外の企業や中小企業にも幅広く影響を与えることになる。
フォーラム内では、特に中小企業に過度な負担をかけないために、各国政府や国際機関がどのように支援すべきかが盛んに議論された。
中小企業を主題としたセッションで、国連グローバル・コンパクト人権担当シニア・マネージャーのジョアン・ビリカ氏が「中小企業は、地域社会の中心に位置し、倫理的行動や持続可能な慣行に影響を与える潜在的な力を持っている」と述べたように、ルールの実効性を高め、着実に取り組みを進める上で、中小企業はきわめて重要なステークホルダーとなる。
中小企業支援に注力している代表例として紹介されたのはドイツだ。
ドイツではCSDDDに先立ち、国内法で企業にデューディリジェンスの実施を義務づけているが、対応する中小企業に負荷がかかり過ぎないよう、さまざまな支援策も推進している。
具体的には、ヘルプデスクを設置し、中小企業が使用できるサプライチェーン上のリスク分析ツールや他社の取り組み事例を共有するオンラインデータベース、中小企業向けのガイダンスなどの情報を提供するほか、専門家による無料の相談サービスを提供している。
また、セルビア商工会議所とも連携し、ルールの影響を受けるセルビアの中小企業への情報提供なども行っているという。
欧州中心の視点にとどまるルール形成への警鐘も
さらに、中小企業だけでなく、グローバル・サウスを含む欧州域外の「現場」に目を向けることを求める声も目立った。
法律家やコンサルタントなどの専門家が集うセッションでは、南米からの参加者が、国際的なルール形成がヨーロッパ中心の視点にとどまっていることに強い危機感を示す場面が見られた。
欧米諸国の法律家などに対して、「ジュネーブ、ブリュッセル、フランクフルト、どこで議論をしていても、その根底にある深刻な人権問題に目を向ける必要がある。そのためには、グローバルな連携と協力が必要だ」と呼びかけた。
世界規模でルール形成が加速する中で、欧州や大企業中心の視点に留まらず、いかに多様なステークホルダーの視点を取り込んでいけるかが注視されている。