本質的なステークホルダーエンゲージメントとは

 企業が人権尊重の責任を果たす上で、決して欠かすことのできない点が権利保持者(ライツホルダー)を含むステークホルダーとの対話と連携だ。

 ステークホルダーエンゲージメントは今年のフォーラムでも引き続き注目テーマの1つであったが、形式的な取り組みに留まらない「真に意味のある」エンゲージメントの実現に向けては、依然として課題が多いことも指摘された。

 関連するセッションの中で、UNDP(国連開発計画)アジア太平洋地域事務所のハープリート・コール氏は「企業の努力は進んできたものの、いまだにコンプライアンス対応を目的とした『形式的な対応(Ticking the box activity)』に終始しているため、現場の声を吸い上げるアプローチが欠如し、ステークホルダーエンゲージメントが持つ価値創造の潜在能力が十分に活用されていない」と語った。

 では、「本質的な」ステークホルダーエンゲージメントを実現するにはどうすべきなのか。

 企業の人権尊重への取り組みを評価するイニシアティブ「Corporate Human Rights Benchmark(CHRB)」を運営するWorld Benchmarking Allianceのポーリーナ・マーフィ氏は、「ライツホルダーとの関わり方に迷う場合は、直接対話を通じて効果的なエンゲージメントを確認すべきだ。一方的に彼らにとって最善と思う方法を決めつけるべきではない」と述べ、ボトムアップでプロセスを進める重要性を訴えた。

 これは、人権デューディリジェンスのプロセスそのものをバリューチェーン全体やライツホルダーの声を反映する包括的な仕組みにするためにも重要な視点だ。プロセスの設計段階から、地域社会や労働者などの意見を聞く場を設け、懸念や不満を議論し、意思決定の場にも参加させることが大切だと繰り返し強調された。

 日本におけるステークホルダーエンゲージメントの先進事例としては、ファーストリテイリング社の取り組みが紹介された。

 日本では、企業がNGOなど市民社会からの批判を恐れて対話を避ける姿勢があると指摘されてきたが、ファーストリテイリング社では過去にNGOなどからさまざまな意見や批判を受けたことを踏まえ、サプライチェーン、従業員、顧客との対話の機会を重視し、人権尊重の取り組みを改善してきたという。

 ステークホルダーエンゲージメントを単なる義務ではなく、企業の持続可能性や社会的価値の創造に直結する戦略的要素として、経営の根幹に取り込んでいくことが重要と言えるだろう。

新疆ウイグル自治区で栽培される綿花(写真:新華社/共同通信イメージズ)新疆ウイグル自治区で栽培される綿花(写真:新華社/共同通信イメージズ)