使えない外貨ばかりが増える構図

 貿易収支を見ると、最大の貿易パートナーである中国向けは小幅の赤字だ。これでは、ロシアは人民元を十分に稼ぐことができない。代わりに、二国間貿易で最大の貿易黒字を計上している国はインドだが、インドのルピーを用いて第三国からの輸入を決済することは、文字通り、至難の業である。

【図表3 ロシアの貿易収支】

(出所)IMF、DOT(出所)IMF、DOT
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 ウクライナ侵攻直後までは、ロシアはEUから多額の貿易黒字を計上していた。そうして得た外貨収入はユーロであり米ドルといった国際通貨(ハードカレンシー)だったから、あらゆる国との決済に使うことができた。しかし、対外経済関係の新興国シフトを進めた結果、ロシアには用途が限定される外貨がダブつくようになったと整理できる。

土田氏の新著『基軸通貨

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がBRICS間での共通通貨や独自の決済網の整備、あるいは暗号資産であるビットコインの利用を呼び掛けている最大の理由は、ここにあるのではないか。つまり、新興国シフトを完了させ、貿易黒字を計上し続けても、ロシアが稼げるのはソフトカレンシーに過ぎない。この状況を打開したいという思惑があるのだろう。

 裏を返せば、この問題は、ロシアのルーブルが新興国の間で信用されていないことの裏返しでもある。2024年の貿易統計の動きは、ロシアの対外経済関係の新興国シフトが完了しつつあることを窺わせる内容だった。しかし同時に、ロシアが持つ貿易黒字の意味合いが、この間にネガティブな方向に大きく変わったことを物語るともいえよう。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。