じわじわと現れ始めた家計所得への影響
雇用情勢が危うくなってくれば、自ずと家計の所得に対する圧迫も強まると予想される。
ロシアでは2023年以降インフレ率を上回る賃上げが続いており、実質賃金は8%増から10%増のピッチで増加が続いている(図表3)。労働需給がタイト化したことに加えて、ロシア政府が分配政策を強化していることが、実質賃金の増加につながっている。
【図表3 ロシアの実質賃金の推移】

例えば、ロシア政府は最低賃金を2023年の月額1万6242ルーブルから2024年に1万9242ルーブルに、さらに25年には2万2440ルーブルへと引き上げている。軍需の恩恵を受ける産業ならこうした賃上げの動きに十分対応できたはずだが、一方で軍需の恩恵を受けない産業の場合、こうした動きに食らいつくのは容易でなかっただろう。
そして、既に述べたように、軍需の恩恵を受けない産業を中心に、雇用整理の動きが顕在化している。つまり、そうした産業に従事する労働者に関しては、すでに所得の伸びが鈍化しており、インフレ負けの様相を呈するようになっていると考えられる。
このような動きが広がってくれば、経済成長を下支えしてきた個人消費も下押しされる。
ロシアの小売売上高は2024年に7.4%増加したが、年明け1月は前年比5.4%増、2月は同2.2%増と勢いを徐々に鈍化させており、個人消費が減速している可能性を強く示唆する。すでに増勢が減速している中で、所得の伸びもインフレ負けするようになれば、個人消費は下振れを余儀なくされ、国民の生活の余裕も着実に失われるだろう。