このように、中国はその海軍基地をString of Pearls(真珠の糸)*1添いに着々と整備してきたが、それが一段落ついた今、次に狙いを定めているのが、対米戦略上の先端防衛線となる第二列島線や第三列島線が存する太平洋諸島地域である。
*1 アフリカ、インド、アジアを結ぶ海上交通上の要衝を結ぶ回廊であり、具体的には、紅海の出口にあるStraits of Mandeb、ペルシャ湾の出口にあるStrait of Hormuz、東南アジアの真中を通るStrait of Malacca、その迂回路Strait of Lombokを結んだライン
中国が途上国で整備する港湾、民生用としては必要以上のスペック
中国は、すでにバヌアツやソロモンに巨大な港湾や空港を作っており、その規模は、これら小国が必要とする規模を遥かに超えている。例えば、バヌアツのルーガンビル港は、2017年に上海建工集団によって整備されたが、その埠頭は、大型貨物船が一度に数隻も停泊できる規模であり(長さ360m、深度25m)、その強度も格段に強化されており、重量級の軍備品の積み下ろしにも耐えられようになっている。
第三列島線上に位置するサモアにおいても中国は同規模の大型埠頭(長さ300m、深度15m)を建設する必要性があると考え、その建設案をサモア政府に提示し、いったんは契約が締結されたが、2021年に発足した新政権は、同契約を破棄すると公約している。第二列島線上に位置するパプアニューギニア(PNG)では、(1974年に豪州からPNGに移管された)ロングラム基地が老朽化したため、PNG政府がその改築を検討していたところ、2018年、中国側はすかさずその改築工事を申し出たが、これを警戒した豪州は、すぐさまPNGの港湾当局に対し、その改修支援は豪州が行うと言明し、2021年、豪州政府は、豪州企業に同基地の改修工事を発注したという経緯がある。
これらの港湾(String of pearls上の港湾も太平洋諸島地域の港湾も)は、その改修後の規模は、民生用として必要とされる規模を遥かに上回っており、はじめから軍事基地としての併用を想定したものであることは明らかである。だが、これら港湾の目的を中国側に問い合わせれば、中国側は必ずやそれは“純然たる経済目的のための港湾であり、軍事的意図などは全くない”との回答が跳ね返ってくるであろう。
今の時代、当局の公式発言を(特に、強権国家のそれを)そのまま信ずる識者はどこにもいないだろうが、実は、この“dual use”方式は、「孫子の兵法」以来の中国の戦略の根底に脈々と流れる思想であり、その場しのぎの便法などではない。
この“dual use”方式戦術は法的にも明確に位置付けられており、2010年国家防衛近代化法*2で「軍・民一体化」として明確にされた。そこでは、平和時の活動は戦時における活動に密接にリンクされるべきであるとの考え方が打ち出された。
この考え方は、2015年に発出された軍改革指針においても踏襲され、「軍・民統合」という表現で表され、ここ数年は、習近平政権の下、「軍民融合」(Military-Civil Fusion)という表現に変わったが、その基本的考え方は同じである。
*2 Russel, B. D., & Berger, H. B.,(2020). Weaponizing the Belt and Road Initiative, Asia Policy Society Institute, NY, USA、18 page