4月4日、ロシア軍による攻撃が続く中、キーウ近郊の町・ブチャを視察したウクライナのゼレンスキー大統領。町では民間人と見られる多数の遺体が見つかった(提供:Ukrainian Presidential Press Service/ロイター/アフロ)

(在ロンドン国際ジャーナリスト・木村正人)

[ロンドン発]ウクライナ軍の激しい抵抗で、ロシア軍はウクライナの首都キーウからの撤退を終了しつつあり、東部や南部の戦いに集中し始めた。停戦や和平合意によって現在の前線が固定された場合、ロシア軍は再侵攻に備えて部隊を再編成する時間を稼ぐことができる。

 西側はウラジーミル・プーチン露大統領の領土的野心を封じ込めるために「戦争恐怖症」を克服する必要がある。いま考えられるシナリオを検証した。

キーウから撤退し始めたロシア軍

『モスクワ・ルール ロシアを西側と対立させる原動力』の著書があるロシア研究の第一人者で、英シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)上級コンサルティング研究員を務めるキーア・ジャイルズ氏が欧州ジャーナリスト協会(AEJ)の討論会に参加し、戦争終結の6つのシナリオを指摘した上で「忘れてはならないのは、プーチン氏はそもそもウクライナという国家を消滅させるためにこの戦争を始めたということだ」と強調した。

 プーチン氏がソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的大惨事」と呼んだことはよく知られている。

 しかし発言を額面通り受け取ってはならない。プーチン氏は親露派が支配する東部ドンバスの独立を承認した2月21日の演説などで「ウクライナはボリシェビキによって作られた」と歴史を100年以上さかのぼり、このプロセスを逆転させると宣言した。プーチン氏はソ連ではなく、ロシア帝国の領土が失われたことを嘆いてみせたのである。

 その「ウクライナを国でなくする」という計画が頓挫した今、プーチン氏は面子を保つ現実的な落とし所を見つけなければならない。ジャイルズ氏は考えられる6つのシナリオを列挙した。

英王立国際問題研究所の上級コンサルタント研究員キーア・ジャイルズ氏(本人提供)