ゼレンスキー氏が唱える中立とは

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3月27日、ロシアとの和平交渉を前に独立系露ジャーナリストとのインタビューに応じ、「安全保障と中立、ウクライナの非核のための準備ができている。これが最も重要なポイントだ」と発言した。ゼレンスキー氏は自国の外務省や国防省の意見にほとんど耳を貸さず、大統領府が中心となって和平案を作成したと言われている。

 欧州で中立政策をとる国はスウェーデン、フィンランド、スイス、オーストリア、アイルランドの5カ国。スウェーデンとスイスは軍事的な中立が自国の利益になると考えており、アイルランドは北アイルランド問題を抱えるイギリスとの関係もあって歴史的に中立を続けている。

 オーストリアは第二次大戦後、主権を回復する条件として中立を守り、フィンランドは地理的に近いロシアの軍事力や政治的影響力に弱いため、中立を強いられている。

 ゼレンスキー氏の中立はフィンランドを意識しているように聞こえる。筆者はジャイルズ氏に「どうしてゼレンスキー氏の中立案を6つのシナリオに加えなかったのか」と質問した。

「中立というのは素敵な響きだ。しかし安全保障を伴うウクライナの中立を求める状況は2014年当時のウクライナと同じだ。ロシア軍のクリミア侵攻と併合、東部紛争を止められなかったことを忘れてはいけない」

 ジャイルズ氏はこう答えた。

「ゼレンスキー氏のインタビューが西側メディアの見出しになる時、文脈やニュアンスが見逃される。西側研究者が考える中立という言葉はゼレンスキー氏もウクライナも絶対に使えない。今よりひどい状況に追い込まれることが分かっているからだ。見逃されている要素は現実に機能する安全保障だ。その意味で西側がウクライナへの武器供与を止めることはあり得ない」(ジャイルズ氏)

キーウ近郊の町ブチャで発見された多数の遺体の中には後ろ手にされた両手を結束バンドで結ばれているものもあった。民間人を故意に虐殺した証である(写真:AP/アフロ)