第一のシナリオは、プーチン政権が倒れるか否かにかかわらずロシアが崩壊し、ロシア軍がウクライナの領土から撤退する。ウクライナ軍参謀本部によると、ロシア軍の戦死者は1万7800人。軍事的損失だけで258億ドル(約3兆1700億円)以上という試算もある。

最もあり得るのはロシアの一方的な勝利宣言

 第二に、ウクライナが崩壊する。ジャイルズ氏は「ウクライナ軍の復元力がいつまで続くか内部関係者しか分からない」と言う。1940年、ソ連との冬戦争で国土の一部を失いながらも独立を守ったフィンランドのようにウクライナ軍も粘り強い抵抗を見せる。しかしいつまで耐えられるのか。ウクライナも譲歩を迫られる。

 第三に、ウクライナが西側の支援を失い、ロシア軍の支配するクリミア半島や東部の領土をあきらめて戦争を幕引きする。

 第四に、膠着状態のまま兵員や装備を注ぎ込んで何年も戦争を継続する。双方とも支配地域を拡大できずに消耗戦に突入する。

 第五に、2008年のグルジア(現ジョージア)紛争、ロシア軍による15~16年のシリア軍事介入、14年の東部紛争のミンスク合意と同じように機能しない停戦を西側が働きかける。モスクワでつくられたロシアに有利な停戦案に署名するようウクライナに強いる。「全く機能せず、長続きしないことはみな承知している」(ジャイルズ氏)という。

 ジャイルズ氏が最もあり得ると分析するのは第六のシナリオだ。

 ロシアが現状に合わせて一方的に勝利宣言を行い、戦闘を終結する。現にプーチン氏はゼレンスキー政権を倒して傀儡政権をつくる作戦をあきらめ、東部や南部を解放する目標に縮小している。兵員や装備の甚大な損失は他の国と違ってロシアではそれほど問題にならない。第一次大戦や第二次大戦でロシア(ソ連)はそれぞれ約330万人、最大2700万人も犠牲を出している。