(歴史ライター:西股 総生)
VARによるチェックの対象とされる事象とは
2024年シーズンのJリーグも大詰めを迎え、日本代表はワールドカップのアジア最終予選で快進撃を続けている。今年はパリ・オリンピックなどもあった。こうした中で、何かと話題になったのがVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)だ。
VARの判定結果に納得がいかない、誤審ではないか、とネット上で紛糾する事態は数知れず。いや、ネットでサッカーの話題に関わらなくても、テレビやスタジアムで観戦していて釈然としない思いを経験されたサッカーファンは、少なくないだろう。
では、現行のVARは何が問題なのだろうか? 本稿は、サッカー好きな歴史家である筆者が、サッカーの専門家とは別の視点から、VARの問題点を考察してみたものである。以下、サッカーにあまり詳しくない読者のために、できるだけサッカーの専門用語は使わないよう心がけながら、話を進めたい。
さて、VARに類するシステムは、現在では多くの競技に導入されている。野球やテニスが代表的だし、大相撲でも物言いがついた場合には、別室の審判部員が土俵上の親方衆と連絡を取りながら、VTR画像をチェックしている。
けれども、これらの競技で判定結果が問題となることは、皆無ではないが、サッカーに比べたらごく少なくて済んでいる。野球やテニスや大相撲で、判定結果に会場が騒然となる光景はあまり見たことがない(野球のストライクをめぐる判定は別として)。
では、なぜサッカーのVARだけが、これほど問題となるのだろうか? 2024年11月の執筆時点で、サッカーのVARによるチェックの対象とされている事象は次の4つだ。
①得点が認められるかどうか
②PKの対象となるプレーの有無
③レッドカード(一発退場)の対象となるプレーの有無
④カード提示の人の間違い
もう少し詳しく説明すると、①は単にボールがゴールラインを割ったかどうかだけでなく、得点に直接つながるプレーの中で、攻撃側にハンドやファウル、オフサイドなどの反則がなかったか、もチェック対象となる。
②は、ペナルティエリア内で守備側に反則がなかったかどうかが、チェック対象だ。
③は、主審が視認できない場所で危険な反則行為などがなかったか、である。
④はレアケースだが、乱戦の中でファウルが起きると、とっさに誰がファゥルしたのか主審には判別がつかない場合がある。選手の側も「あいつがやりました」とは言い出しにくいので、VARの出番になるわけだ。
要するに、①と②はゴールが正当なものかどうか、③と④は審判の重大な見逃しや間違いをフォローするもので、すべてのプレーが対象となるわけではない。すべてのプレーをいちいちVARでチェックしていたらキリがないし、技術や人的資源の問題もある。
すべてのプレーをチェックするためには多数のカメラが必要だし、画面をチェックするための人手もいる。VARレフェリーはフィールド上の主審と同等の技量・経験を持っていないと、オフサイドやファウルの判定ができないからだ。(つづく)