濱田さんはこう言う。

「東電は『長期評価は信頼できない』と主張するなら、科学の問題としてその意見をまず地震学会などで明らかにし、それなりの支持を取り付ける努力をすべきでしょう。しかし、事故前も事故後も、地震学会では東電は福島の津波想定に関する調査研究も長期評価に関する意見も出していない」

「地震本部の活動について陰口を触れ回っても、学術の場でその意見を主張する勇気はとてもないということだと思います。いわばボクシングの試合で、リングの外で自分が強いとか勝者だと叫んで回るが、リングには決して上がらないボクサーのようなものです」

 そして「裁判官がその現実を見ていない」と批判する。

東日本大震災発生から3日後の東京電力福島第一発電所=2011年3月14日撮影(写真:DIGITAL GLOBE/Science Photo Library/共同通信イメージズ)

 長期評価についての裁判所の判断は、株主代表訴訟の東京地裁と東京高裁で異なっているだけではない。

 住民らが国と東電に損害賠償と原状回復を求めた集団訴訟では、最高裁は、長期評価にもとづく津波高さの計算は「合理性を有する試算であった」*3と述べている。

 一方、同じ最高裁でも、東電旧経営陣の刑事裁判では「長期評価の見解は、本件発電所に10m盤を超える津波が襲来するという現実的な可能性を認識させるような性質を備えた情報であったとまでは認められない」*4とし、上告を棄却している。

 長期評価が信頼できるかどうか、裁判ごとに判断がコロコロ変わる。そんな状態では、果たして裁判官は地震を予測する科学のことがわかっているのか、疑われても仕方ないだろう。

*3 令和4年6月17日最高裁第二小法廷判決(https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-91243.pdf

*4 令和7年3月5日最高裁第二小法廷決定(https://shien-dan.org/wp-content/uploads/20250306-doc.pdf

科学の不確かさを認めない東京高裁

 裁判所の判断がばらつくのは、主に長期評価のもつ不確実さのためだ。地震本部地震調査委員会の分科会メンバーとして長期評価の策定にも関わった濱田さんは、こう説明する。

「当然、不確実なところはいっぱいあるわけです。地震の予測は、数学や物理の証明とは違う。研究者が全面的に賛成しているわけではないですよね。だいたいの人は、まあこんなもんでしょうという肯定は与えているけれど、当然異論を持つ人はいるわけですよ」

「プレートテクトニクスは、半世紀以上かかってやっと認められた。初めは少数意見でみんな信じなかったわけです。今ある学説だって、そういう問題がたくさんある。だけれどもすでに大部分の人がこうだと思っていることを、裁判所が『完全じゃないから』と言って信頼性を否定するやり方はおかしい」