刑務所が間に入り、事件の被害者や遺族と加害者が文書を通して言葉を交わす制度が始まっている(写真:NOBU/イメージマート)
2023年12月1日から「心情等伝達制度」という新しい制度が施行された。この制度は、刑務所が間に入り、事件の被害者や遺族と加害者が文書を通して言葉を交わすことができる制度だ。加害者から被害者への謝罪の機会になるが、同時に両者の罵倒の応酬になるケースもある。この制度の意義や効果をどう考えたらいいのか。『「殺された側」から「殺した側」へ、こころを伝えるということ』(光文社新書)を上梓したノンフィクションライターの藤井誠二氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──「心情等伝達制度」という制度が始まりましたね。
藤井誠二氏(以下、藤井):これは刑務所にいる受刑者(加害者)と、被害者やその遺族などが、文章を通して会話ができるという制度です。
聞き取り担当になった刑務官が被害者側から言葉を聞き取り、既定の用紙にその内容をまとめ、刑務所に持ち帰って加害者に渡します。その内容を読んだ加害者側の回答や意見を刑務官が再び聞き取って文章にまとめ、被害者や遺族に渡すのです。
3週間ほどでやり取りが一往復するのが一般的で、何度でもこの制度を通して言葉を交換できます。
実はこれまでも加害者と被害者や遺族が文通することは可能ではあったのですが、そんなことをしている人はほとんどいませんでした。今回、公的な制度の中で刑務所を間に挟むことによって、そうしたやり取りが増えるとみられています。そこで、実際にこの制度を利用した方々に取材を重ね、緊急で本をまとめました。
──この制度の導入が決まったときに、藤井さんはどう思われましたか?
藤井:疑問や不安が脳裏をよぎりました。いくら加害者からの謝罪や反省の言葉が書かれていたとしても、それがどこまで本心かは分かりません。
そして不安に感じたのは、加害者が被害者や遺族を罵倒するような言葉を返してくることもあり得るということです。そうなれば被害者側が傷を深める二次被害になってしまう可能性もあります。
だからこそ、この制度を使う側は、ある種の心構えを持つことが必要で、間に入る刑務官がどう立ち振る舞うのかも重要になると思います。
──被害者や遺族の側が非常に強い言葉を使って、加害者を刺激する場合もあると思いますが、どの程度のことまで言ってもいいという指導はあるのですか?
藤井:この制度が始まる前に、法務省は全国の刑務官を対象に研修会を開きました。
本来であれば、殺された側からすれば「度が過ぎる」という言葉はないと思うのですが、刑務官が表現を丸めるなどの配慮もあるそうです。例えば被害者や遺族が「殺してやる」などと言った場合、脅迫になってしまうので言葉を変えるようです。
これまで刑務官は被害者の側に立つという経験をしてきませんでしたから、担当の刑務官は被害者を気遣うような訓練をかなりしたようです。
