大きなビニール袋をドカッと机に載せた相談員

「社会福祉協議会に行くと、緊急小口資金という貸付制度があって、無利子でお金を借りられます。ただ、今はかなり審査が厳しいですし、借りられたとしても返済しなくてはいけません。どうでしょう、年金支給が開始される8月までは、貸付には頼らず頑張っていただくのは」

 そう言って相談員は立ち上がり、大きなビニール袋をドカッと机に載せた。

 あっけにとられるAさん。中には「災害用非常食」と書かれた「鰯の煮物」「肉じゃが」などのレトルト食品が10パックほど入っていた。「自立支援制度」では、こうした食料の無料配布もしているのだ。

「これ、もらっていいんですか?」

 Aさんはたまげた声を出している。金より現物支給、かなり合理的だ。

生活困窮者に食料を提供するNPOは増えている生活困窮者に食料を提供するNPOは増えている

 だが、筆者はむしろ心配になった。食料品の支給という最終手段とも言うべき措置をAさんは受けている。もしAさんの尊厳や自尊心が著しく傷つけられていたらどうしようと思ったのだ。

 ところが、それは杞憂だった。

「これ、お湯で温められるよね」

 Aさんは袋からおかずを取り出して眺めている。Aさんの家にはカセットコンロがあるのみで、電子レンジもケトルもないというが、湯せんで何とかなるだろう。

 相談員は「社会福祉協議会に行けば、もっと食料品がもらえる」と教えてくれた。連休が明けるまであと1週間もある。もう少し食料を調達したほうがよさそうだ。

「あのう、お金を借りるのはやっぱり難しいんですかね」

 Aさんはまだ現金に執着していた。とりあえず相談員と筆者がなだめ、更なる食料品を受け取りに、蒲田にある社会福祉協議会へと移動した。