見えないテレビを買わされる

 郵便の中には、Aさんが所属する派遣会社から「年末調整のため、障害者であることを証明する書類と、年金収入の金額を教えて」という内容の通知が来ていた。

 写メールで送れば済む話だが、メールの送り方がわからないAさんには、持続可能な方法ではない。必要な書類を持って、一緒に蒲田駅近くにある派遣会社の事務所へ向かうことになった。

 Aさんと街を歩いていると、蒲田の美味しい店を次々と教えてくれる。

「ここの焼き鳥、おいしいんですよ」
「ここのハンバーグ、有名なんですよ」

 2カ月に1回振り込まれる年金を、Aさんはあっという間に外食で溶かしている。

「金がないなら贅沢するな」と言う人がいるが、むしろ逆だと思う。満たされない気持ちがあるから、どこかで埋めようとする。Aさんは毎日、単純作業の肉体労働をして、楽しみは休日の競艇だけだから、外食したくなる気持ちもわかる。

 そしてAさんには、とんでもない「知り合い」もいた。

「友達から中古のテレビを買わされて、オレの家には映らないテレビが5台くらいあるんですよ」

 Aさん、それは友達じゃないよ。悪い奴だよ。

 さらに、Aさんのスマホの通知がチラと見えてしまった。大手消費者金融のロゴマークから「与信審査お断り」のお知らせが来ている。

「Aさん、お金借りたりしていないですか? 大丈夫ですか」
「エへへ、バレちゃいましたね……」

 問い詰めると、中小の消費者金融から50万円の借り入れがあることを白状した。今も毎月返済しているという。