派遣会社の「ちゃんみな」はやさしい
とんかつ屋から徒歩20分くらいのところに、Aさんの所属する派遣会社の事務所はあった。小ぎれいな派遣会社の事務所には「ちゃんみな」風の若い女性事務員と、無煙たばこを口にくわえた中年太りの眼鏡のおじさんがいる。
「Aさん、明日からまた頼むね~」
中年太りの社員が、Aさんに挨拶。Aさんは今日、有給休暇を取っているのだ。金髪の「ちゃんみな」は笑顔で対応する。世間で「派遣会社」は奴隷商人のように思われているが、実際の担当者はだいたい感じがよく、やさしい。
Aさんの時給は、東京都の最低賃金+αの1300円だが、恐らく派遣会社は2300円くらい受け取っているだろう。
ほぼフルタイムで働くAさんの月給は手取りで15万円くらい。ところがAさんは、給料を週払いで受け取るため、月末に入るのは2万~3万円だ。だから年金受給開始後も、Aさんの金欠は解消されていない。
派遣会社にとって「前借り」は、Aさんをつなぎとめるのに都合のいいシステムだろう。人手不足のため派遣会社はどこも、労働者の調達に苦慮している。漢字も読めない、お金の計算もできないAさんは、仕事をし続けることになる。
「今日はキチョーな時間をありがとうございました、また連絡します」
別れ際にそう言うと、時間を持て余したAさんは平和島の競艇場へと消えていった。
天涯孤独のAさん、お金があれば使ってしまうAさん、都合よく使われるAさん……。この年末年始も、大型連休と同じことが繰り返されるかもしれない。
年末年始は生活困窮者にとって長い空白期間となる。今年は多くの人が12月27日から1月4日までの「9連休」になるが、家族や友人と過ごす人と違い、一人ぼっちの高齢者には心も体も震える日々だ。
お金がない、仕事もない、病院も役所も閉まっている。筆者は胸騒ぎを覚え、冬休みがスタートした翌日の12月28日、ふたたびAさんに連絡した。