食品工場はシニア労働者の最後の砦になっている(写真:graphica/イメージマート)
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 超高齢化社会の到来で、もはや60代は「高齢者」ではなくなっている。60歳以上の就業率は年々上昇しており、60~64歳の7割以上、65~69歳の5割以上が収入のある仕事に就いているという。

 もっとも、労働市場において、60代はつい10年ほど前まで「終わった人」だった。「猫の手も借りたい」人手不足の現場でも、60歳以上の「シニア労働者」はいまだに扱いにくい存在のようだ。

 それでは60歳以上と一緒に働く現場の若い世代は、どのような気持ちでシニアを採用し、シニア労働者にどんな本音を抱いているのだろうか。現場で重宝されるシニアとはどんな人なのか──。シニア採用を積極的に行っているという企業の社員が、匿名でインタビューに応じてくれた。(若月 澪子:フリーライター)

【前編】「派遣会社で採用されるシニアはどんな人なのか?求められる特徴と採用側が引いてしまう決定的な一言」から読む

食品工場はシニア労働者の「最後の砦」か

 仕事が見つからない。それでも働かざるを得ないシニアが最後にたどり着く仕事の一つが食品工場である。

 食品工場は肉体的にも精神的にも過酷な労働だ。こうした現場には、高齢の労働者と外国人労働者の割合が高い。

「僕が勤めている食品工場でパートさんを募集すると、一番多く応募される年代が60代以上のシニア世代です。ハローワークから『他で5~6社受けて断られた方ですが、そちらで採用できませんか』と直接依頼されることもあります」

 こう話すのは、九州地方にある食品工場で、採用を担当しているというZさん(30代男性)。Zさんの工場では6年ほど前から、人手不足解消のためにシニア採用を積極的に行っているという。

「採用のボリュームゾーンは60~68歳です。これまでに採用した最高齢は72歳。シニアの男女比は6:4。ちなみに定年は75歳です」

 Zさんの食品工場では学校給食や介護施設の給食、コンビニ弁当などで使用されるハンバーグやメンチカツを製造している。従業員数350人のうち、工場の製造現場で働くのは250人。そのうちおよそ50人が60歳以上のシニアだ。この工場に外国人労働者はいない。

 シニアが食品工場で働き始める事情はさまざまである。

「シニア男性は自営業を畳んだ人とか、一般企業を早期退職・定年退職した人とか。60歳を過ぎて会社にいても居心地が悪く、自主的に辞めてここにきたという人も何人かいらっしゃいます。シニア女性はご主人が失業した、ずっと40年間専業主婦だったけど旦那が家にいて息苦しいから働きに出たという人も」

 いずれも、経済的に深刻な事情を抱える人が多いという。

「シニア女性の中には、結婚をしておらず、子どももいないうえに収入がほとんどなく、仕事をしなければ生活できないという方も複数おられます」

 従業員の勤務時間は9~17時の週5日のフルタイム。ただし60歳以上は全員パートで、正社員にはなれない。時給は1020円(福岡県の最低賃金は2025年8月時点で992円)、月の手取りは14万円だという。

 これらの日中勤務とは別に、夜22時~深夜2時までの4時間勤務のシニアもいる。彼らは60~70代の男性で、いずれも日中は配送業や小売業などで働くダブルワーカーだ。深夜は手当も付くため時給1500円である。

「ダブルワークされている方はめちゃくちゃ元気ですね。深夜の仕事は本当に人手不足なので、シニアに助けていただいている状況です」

 食品工場に限らず、シニアに支えられている深夜帯の現場が、今の日本には数多く存在する。