失脚した中央軍事委員会副主席の張又侠(写真:AP/アフロ)
(福島 香織:ジャーナリスト)
すでに多くのメディアが報じているように、中国の人民解放軍制服組トップで中央軍事委員会副主席の張又侠と、中央軍事委員で連合総参謀部参謀長の劉振立が同時に失脚したことが1月24日、中国国防部の発表によって明らかになった。
張又侠は中国建国に貢献した将軍の一人で、張宗遜の息子。張宗遜と習近平の父親、習仲勲は西北野戦軍の副司令と副政治委員・書記として肩を並べ、革命戦争を戦いぬいた戦友同士だ。
建国後は張宗遜、習仲勲ともに、開国元老、開国上将として活躍し、張又侠と習近平も幼馴染。さらに張又侠は1979年、1984年の2度にわたるベトナムとの戦争にも参戦し、あの過酷な戦場を多くの部下ともども生還した実戦経験をもつ軍人だ。
張又侠は、解放軍の紅二代目(共産党元老二世)にしてベトナムとの戦争で実戦経験をもつ英雄として解放軍内で高い尊敬を受けてきた。その張又侠が幼馴染の習近平のために尽力したからこそ、習近平の軍制改革はなんとか進められた。習近平にとってはかけがえのない恩人で、だからこそ第20回党大会(2022年)で、習近平は本来引退年齢である72歳の張又侠に頼み込んで中央軍事委員会副主席に残留させたのだ。
習近平は確かに、軍権掌握のために2013年以降、膨大な数の将兵を粛清し、そこには一番の愛将として引き立ててきた苗華や何衛東まで含まれたが、さすがに張又侠まで排除するとは思われていなかった。張又侠は75歳で、あと2年すれば自然にフェードアウトする立場だ。
それなのに、なぜ習近平は幼馴染で恩人の張又侠粛清に踏み切ったのか。その背後で何が起きているのか。そして、この解放軍大粛清の結果がどのような事態を引き起こすのか、改めて整理してみたい。
張又侠・劉振立粛清の公式発表の中身
国防部の1月24日の発表によれば、中央政治局委員、中央軍事委員会副主席の張又侠、中央軍事委員会委員、中央軍事委員会連合参謀部参謀長の劉振立が重大な規律違反・法律違反の疑いがあることから、党中央の審議を経て、両者を立件し取り調べを実施することが決定された、という。
その翌日の解放軍報の論評によれば、「張又侠、劉振立は、党と軍隊の幹部であるにもかかわらず、党中央と中央軍事委員会の信頼と重任を著しく裏切り、軍事委員会主席責任制を深刻に踏みにじり破壊した」「党の軍隊に対する絶対的指導を損ない、党の執政基盤を脅かす政治的・腐敗問題を助長し、中央軍事委員会指導部のイメージと威信を著しく傷つけ、全軍の将兵が団結して奮闘する政治的・思想的基盤を深刻に揺るがした」という。
さらに、「軍隊の政治的建設、政治的生態、戦闘力建設に甚大な損害を与え、党、国家、軍隊に極めて悪質な影響を及ぼした。張又侠、劉振立を規律と法律に基づいて厳正に処分することは、政治的に根本を正し、思想的に弊害を排除し、組織的に腐敗を除去して健全な組織を再生させることで、政治整訓の成果を固め深化させ、人民軍隊の再生を推進し、強軍事業の発展に強力な原動力を注入することになる」と述べられている。
解放軍報のいう「軍事委主席責任制を踏みにじった」というのが粛清理由とすれば、彼らの罪は習近平の権力に歯向かった、あるいは不忠誠であった、ということだろう。
だが建前の理由は腐敗、汚職ということなので、
「張又侠、劉振立を断固として調査・処分することは、党と軍隊の腐敗防止闘争が収めた重大な成果であり、党と軍隊が決意と力を有していることの重要な表れであり、軍隊の腐敗防止闘争における難関攻略戦・持久戦・総力戦の勝利にとって重要な意義を持つ」「全軍の将兵は党中央の決定を断固支持し、思想上・政治上・行動上で習近平同志を核心とする党中央と高度に一致し、党中央・中央軍事委員会・習主席の指揮に断固従い、部隊の高度な集中統一と純潔・結束を確保しなければならない」と謳っている。