2023年、ベネズエラのマドゥロ大統領(当時)は訪中し中国の習近平国家主席と会談した(提供:Miraflores Palace/ロイター/アフロ)
(福島 香織:ジャーナリスト)
トランプが新年3日目に行ったベネズエラ急襲およびマドゥロ大統領の電撃逮捕について、米中グレーゾーン事態の持久戦を前提とした資源争奪ハイブリッド戦の一環と考えるのが比較的的を射ていると思う。今回の事件は、米中対立における重大なエネルギー的地政学事件であり、そして石油だけでないレアアースも絡んでくる話ではないか、と考える。私だけがそう言っているのではなく、中国の識者の中にもそう解説している人たちがいる。だとすれば、今後、日本はどのような戦略を考えていけばいいのだろうか。
今回のベネズエラ有事について、中国側の報道を見てみよう。たとえば香港紙明報は、次のように解説している。
中国側はベネズエラ有事をどう報じたか
「トランプは、カラカス(編集部注:ベネズエラの首都、ここではベネズエラ政権を指す)が米国企業にベネズエラ経済、特にその膨大な石油埋蔵量を開放しない場合、封鎖を実施しさらなる軍事行動を取ると脅した。しかしトランプが公然と掲げる帝国主義的目標は、米国と、ラテンアメリカで同様の野心を抱いているとされるもう一つの世界大国・中国との衝突を招く可能性がある」
「中国はベネズエラにとって最大の国際的な関与国であり、ベネズエラは世界で最大の確認済み石油埋蔵量を保有している。昨年末の段階で、ベネズエラの石油輸出量の8割が中国向けだ」
「昨年、マドゥロがモスクワで中国の習近平国家主席と会談した際、習近平は両国を『相互信頼とウィンウィンの良きパートナー』と称し、北京・カラカス間の『鉄の友情』を称賛した」
「2023年から中国とベネズエラの関係は『全天候型・全面的戦略的パートナーシップ』に格上げされた。この称号を受ける国はラテンアメリカで唯一、ベネズエラだけだ」
「現在までに、CNPC(中国石油天然ガス集団)はラテンアメリカで少なくとも4つの主要油田プロジェクトの株式を保有しており、これには国営ベネズエラ石油公社(PDVSA)との約50%ずつの合弁事業も含まれる」
「オックスフォードエネルギー研究所中国エネルギー研究の責任者の梅丹は『中国企業とロシア企業がベネズエラ石油部門の生命線を担っていた』と指摘する」
「AidDataの研究によると、2000年以降、ベネズエラは中国から1050億ドルを超える融資と無償援助を受けている。これにはPDVSAの輸出に関連する数十億ドルに加え、石油・ガスプロジェクト、発電所、鉄道への資金が含まれており、北部都市ティナコとアナコを結ぶ75億ドルのプロジェクトも含まれる」
「ベネズエラは石油と債務の交換方式でおよそ500億ドルの融資を再交渉したが、ブリュッセルのシンクタンク『Beyond the Horizon』の調査によると、依然として中国の債権者に対して約120億ドルの債務を抱えている」
「米国がパナマに介入し、香港企業に運河の2つの重要港湾の売却を強要した」
「同様に、中国の国有企業と民間企業がベネズエラ市場からの撤退を強制された場合、北京が黙って見過ごす可能性は低い。(中略)トランプ大統領と習近平国家主席が昨年末に合意した脆弱な貿易戦争休戦協定を脅かす恐れがある。この合意が破られた場合、両国経済に与える影響はラテンアメリカにおけるいかなる出来事よりもはるかに大きいだろう」
ベネズエラの石油は中国の石油輸入総量のわずか4%であり、ベネズエラの石油を失うことによる中国の経済的ショックはさほど大きくないはずだ。だが、中国のベネズエラ投資は経済目的以上に政治目的にあり、もしトランプの狙いが、中国側の懸念どおり、米国の裏庭のラテンアメリカから中国の政治的・経済的影響力を排除するということなら、中国もこれを受けて立つ覚悟がある、ということだろう。
もちろん、穏健なベネズエラ政府が米国への投資開放と経済開放を進めつつ、既存の関係を維持すれば、今回の事件は、むしろ中国にとって非常に有益な形で終わる可能性もある。エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)中国チーフエコノミストの蘇悦が「中国はイデオロギーよりも実務を重視する可能性が高い。最優先目標は特定の政治家やイデオロギー的立場を支持することではなく、経済的利益を守ることである。(中略)中国がベネズエラから追い出されると決まったわけではない」とはっきりと語るのは、中国の期待を代弁しているのだろう。