10月下旬に開かれた中国の四中全会(写真:新華社/アフロ)
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 (福島 香織:ジャーナリスト)

 四中全会前に苗華、何衛東、何宏軍、林向陽ら、いわゆる軍内福建閥9人の現役上将らの党軍籍はく奪処分が発表されたが、彼らの裁判が四中全会後に始まっているらしい。その裁判は軍の機密に抵触するため公開はされていないが、その周辺からいろいろな「噂」が流れている。

 それが今まで在外チャイナウォッチャーたちが強く主張していた「習近平(総書記、中央軍事委員会主席) vs 張又侠(中央軍事委員会副主席=制服組トップ)」の権力闘争の構図とは大きく異なる、ということで話題になっている。特に興味深いのが、元産経新聞台北支局長で、今は台湾でメディア人として活躍している矢板明夫氏がセルフメディアで語っていた仮説だ。

 それによれば福建閥の大粛清は習近平が自ら判断・決断し、張又侠と連携して推進した、という。私は以前から、習近平 vs 張又侠の軍主導権争いという説には懐疑的だった。習近平の寵愛を利用して急激に軍内勢力を拡大する苗華の忠誠を、習近平自身が疑い始めたことが背景にある、とみていたが、それを裏付けるような情報が出始めているので整理してみたい。

福建閥・何衛東の裁判弁明書

 最近、ネット上で、内部筋からの情報として、老灯ら華人チャイナウォッチャーたちが、何衛東の裁判における弁明書というものがあると指摘している。

 それによると何衛東は、習近平が福建省の指導者として福建省第31集団軍を視察したときに知遇を得て、その後、習近平により抜擢されて出世したという。そのことから、何衛東は、習近平に絶対的忠誠を誓っていた、と主張しているようだ。

 また、軍内の腐敗取り締まりキャンペーンにおいては、何衛東自身も何人もの軍人の人事、調整、処分にかかわってきたが、その取り調べに対して「欠陥や性急さ」があったと感じていたという。

 ただ、何衛東は、習近平の命令による大粛清や軍内の反乱といった問題については否定し、「事実と証拠に基づいて中央規律委員会と軍事規律委員会主導で行われた。自分は(反腐敗を)取り締まる側であっただけでなく、(腐敗にかかわったことが疑われる)参与者にされた」と証言していた、という。

 また、苗華や何衛東が罪に問われる過程で決定的な事件は、廊坊(河北省)特別行動局部隊と呼ばれる“特定危機”に対応する部隊の設置にかかわるものだという。これは元中央党校教授で現在米国に亡命している華人チャイナウォッチャーの蔡霞もその存在に言及していたが、苗華が提案し習近平が口頭で批准して設置された軍内特別部隊で、副主席の張又侠の承認を得ていなかったため、すぐに解散となっている。

 張又侠は、この部隊が張又侠逮捕のために設置されたと疑っていたようだ。だが、何衛東はそうではない、と証言したという。