日本の尖閣諸島への占領作戦も?
いずれの説も、真偽の裏どりは難しい。確実に言えることは、1月16日の中央軍事委員会拡大会議や20日の中央党学校「省部級主要指導幹部による党第20期中央委員会第4回全体会議精神学習・貫徹特別研修班」の始業式など、張又侠や劉振立が出席すべき会合に姿を見せていなかったところをみると、彼らの粛清は1月半ばにはほぼ確定していたと思われる。
解放軍を統率する中央軍事委員会は主席の習近平と昨年秋の四中全会で副主席に昇進した軍事規律検査委員会書記の張昇民の2人を除いて全員失脚したまま、補充人事が行われていない。本来7人で行う集団指導体制は完全に崩れた。習近平は文民、張昇民は軍人とはいえ、規律検査畑出身で戦略や戦術や作戦、軍のオペレーションには疎い。今の解放軍に全軍を率いて戦争できる司令官は不在だ。
この状況を生んだのは習近平の軍制改革だ。2012年に権力の座についた習近平は強軍化政策を推し進め、軍制改革を開始。四大総部を解体し七大軍区を五大戦区に組み換え、ロケット軍や戦略支援部隊(後に解体)などを創設し、汚職の撲滅キャンペーンを展開し、軍人の政治権力や利権、役得を縮小させ、戦闘のプロ集団に作り替えようとした。
それは習近平の野心の祖国統一事業(台湾統一)を軍事的手段で早期に実現するための準備でもあった。そして台湾武力統一を行うために、解放軍の集団指導制から習近平一人に権力を集中する主席責任制を強調し、軍の統治システムを根本的に変えていこうとしたのだろう。その過程で、政治力がある大量の軍人とその派閥を次々と粛清した。
2013~2015年にかけて江沢民派の陸軍長老、徐才厚(東北閥)、郭伯雄(西北閥)の大粛清、2019年までに胡錦濤派で国軍化推進派と言われた房峰輝、張陽らの粛清、2021年には国防大学元政治委員で李先念元国家主席の女婿の劉亜洲の秘密逮捕、2023年からは、習近平が自ら抜擢したロケット軍司令の李玉超ら幹部、装備発展部副部長の饒文敏ら、国防部長で航空宇宙工学に精通していた李尚福、すでに引退していた元国防部長の魏鳳和らの粛清。
2024年暮れからは習近平が福建省長時代から信頼していた苗華、何衛東ら福建閥を粛清し、そして2026年に入って張又侠閥まで粛清したのだ。解放軍は党の軍隊から習近平の軍隊になった。
粛清された軍官の数は習近平政権第1期、第2期の10年で160人以上、第3期が始まってから現在までさらに133人を汚職容疑で取り調べ中と報じられている。第20期中央委員205人中、現役軍官は44人で、その内29人がすでに粛清されている。この粛清の勢いは、スターリンを超えている、という論評もある。
こうした解放軍の状況を踏まえると、目下、台湾武力侵攻作戦を立案、実行して成功に導くベテラン軍人いない。本格的な台湾侵攻は短期的にはないだろうと思われる。だが、習近平が解放軍を立て直すために、勝利が見込めるプチ戦争を起こす可能性は強まるだろう。
戦争を起こすことで軍を立て直す手法は、鄧小平が実際にベトナムに戦争を仕掛けた先例がある。2度にわたる中越国境戦争は解放軍勝利とはいいがたいが、少なくとも鄧小平による軍近代化を後押しした。
そう考えると、台湾離島や日本の尖閣諸島占領作戦などのリスクは5年内にかなり高まると覚悟した方がいいかもしれない。
福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。