「貯蓄ゼロ」シニアの限界

 案の定、AさんからはこんなLINEの返信がきた。

「お金もあまり無いので節約しようか生だ家賃めはられてないで」(原文ママ)

 どうやら家賃と携帯料金は滞納中で食料はナシ。現在の所持金は6000円。仕事始めの日のPASMOのチャージ代として1000円は取っておかなければならないので、残金は5000円だ。

 食料を届けようかと伝えたが、「あまり食欲はないし、食べなくてもどうにかなります」とのこと。「一番困っていることは何ですか?」とたずねると、やはり「お金が」という返事だ。「お金は貸せない」と言うしかない。

「残り5000円だと、今日は12月28日で、29日、30日、1日、2日、3日、4日まで休みで、出勤する5日の食事代も入れると全部で8日間。5000÷8=625円だから、だいたい1日あたり500~600円で過ごすことになります。大丈夫ですか?」

 とりあえずAさんにわかるように言語化して伝える。どんぶり勘定のAさんに数字を示したことで、少しでも不安が解消されて欲しいと願うばかり。

 毎年、年末年始に各所で生活困窮者の炊き出しが行われる。ここに並ぶ人たちは、さまざまな事情があってそこにいるのだろう。非正規労働、家族と疎遠、障害や病気など、自己責任では清算しきれない事情が降り積もっている。

 恐らく、彼らにはお金と食料だけでは足りない。「日々の暮らしを励まし、ややこしい情報をやさしくかみ砕いて伝える」伴走者が必要だ。

 Aさんに「よいお年を」とは言えなかったが、それでも「来年こそ、よいお年を」と思わずにはいられない。

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