「ジェノサイド」なのか?

 南アにおける農家の殺害事件は、確かに存在する。欧米系報道機関やNPOなどの調査では、農家における殺人は年間およそ40〜50件程度とされる。警察は人種別の被害者統計をまとめていないと言うが、死者の中には白人以外に黒人も含まれる可能性が高いという。

 外務省は現状、南アフリカへの不要不急の渡航をやめるよう勧告している。経済の低迷により犯罪率が高く、殺人や強盗などの凶悪犯罪が多発し、治安状況が良いとは言えない。白人の農家の殺害はこうした犯罪被害であり、特定の人種を標的とした「ジェノサイド」ではないというのがおおかたの見方だ。

 これまでに「ジェノサイド」として認められた例としては、カンボジアのポル・ポト政権による170万人もの虐殺や、ルワンダでのツチ系住民など80万〜100万人に及ぶ虐殺などがある。

 18日にはイスラエルによりパレスチナ自治区・ガザ地区への大規模な地上作戦が開始された。一連のイスラエル軍による民間人の大量殺戮や完全封鎖による人為的な飢餓状態は、国連などによりしばしばジェノサイド相当の行為であることが指摘されている。2023年秋の紛争開始以来、パレスチナ人の死者は少なくとも5万人を超えたと見られる。

 ジェノサイドの定義には、殺害された死者数は含まれない。とはいえ、アフリカーナーが主張しているそれとの状況の違いは明白だ。

 南ア政府は紛争開始から間もない一昨年12月、イスラエルによるガザへの攻撃がジェノサイドに当たるとして、国際司法裁判所(ICJ)に訴えを起こした。南アフリカはかつて、少数の白人による人種隔離政策・アパルトヘイトを経験しており、長年同じような状況下に苦しむパレスチナを支援してきた。今回の紛争以前から続くイスラエルによるパレスチナ自治区の占領は、南アよりも極端な形態のアパルトヘイトであり、根本的に違法だと断じた。

 また、トランプ氏が先に言及した土地の没収については相応の背景がある。