
英国の秘密情報局(MI6)のトップに初の女性が就任する。映画「007」で描かれた女性長官と技術トップ「Q」の資質を併せ持つような人物で、しかもまだ40代。子供時代から「スパイごっこ」をするほどスパイに憧れ、実力で世界有数の諜報機関のトップに上り詰めた。混迷を深める世界で、アラビア語も堪能という彼女の手腕に期待が高まっている。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
6月15日、英政府は秘密情報局(MI6)の次期長官に、創設以来初めて女性を起用すると発表した。今秋、MI6長官に就任予定とされたのはブレイズ・メトレウェリ氏(47)。英対外情報機関の第18代長官となる。メトレウェリ氏は大学卒業後から諜報活動に従事し、すでに26年の経験を誇るいわゆる「キャリアスパイ」だ。

政府が発表したメトレウェリ氏の履歴には、必要最小限の情報しか明示されていない。現在の職務はMI6の技術革新局長だ。この肩書きにピンと来なくても、映画「007」シリーズを観たことのある人なら、英国が誇るスパイ「ジェームズ・ボンド」の任務遂行のため、爆弾が仕掛けられた時計やペンなど、ドラえもんの道具ばりのガジェットを開発・提供するコード名「Q(クォーター・マスター)」には馴染みがあるかもしれない。メトレウェリ氏は実在の「Q」であり、また初の女性「Q」でもある。
無論、現役のスパイがその素性を明らかにすることはできず、MI6でその氏名を公にできるのは長官ただ1人だという。長官のコードネームは「C」で、これはChiefではなく、英国初の諜報機関を創設し、率いた英海軍のカミング(Cumming)大佐の苗字の頭文字が由来とされる。
また、カミング大佐が緑のインクしか使わなかったため、今日に至るまで政府関係者で緑色のインクで署名をするのは「C」のみだという。
王室ではすでに何人もの女王や、また女性の首相も存在してきた英国で、その諜報機関が116年の歴史で今回初めて女性のトップを起用したことには意外な感もある。諜報機関のトップだから、という理由も適切ではないだろう。なぜなら、国内の諜報活動を主とする情報局保安部(MI5)では1992年、すでに初の女性長官を迎えている。映画「007」シリーズで俳優のジュディ・デンチ氏がMI6の女性長官を演じ始めたのは、実に30年も前(1995年「ゴールデンアイ」)のことだ。
MI6長官は外務相の直属であり、インテリジェンスに関する報告を分析し、首相に助言もする。混沌とする国際情勢のさなか、この重責を担う女性長官の素顔は、どのようなものか。