始発駅のメラン駅に停車するフィンシュガウ鉄道の列車(筆者撮影、以下同)始発駅のメラン駅に停車するフィンシュガウ鉄道の列車(筆者撮影、以下同)
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(柴山多佳児:ウィーン工科大学交通研究所 上席研究員)  

廃線から14年、劇的に生まれ変わった南チロルのローカル線

 地方部を中心に日本国内の公共交通の経営が苦しいことは、コロナ禍を経て広く知られるようになった。

 2023年10月に法律が改正され、経営が厳しい鉄道路線に対して特定線区再構築協議会(通称「再構築協議会」)を国が設置して協議できるようになった。国土交通省は「『輸送密度』が1000人未満の区間を優先して協議会を設置する」(NHK記事)との方針を明確にしている。

 また「デジタルを活用しつつ、交通のリ・デザインと地域の社会的課題解決を一体的に推進するため」に「地域の公共交通リ・デザイン実現会議」が国土交通大臣を議長として設置された。そのとりまとめ資料には「地域の輸送資源の総動員」や「地域の公共交通の再評価・徹底活用」といった言葉が並ぶ。各地の自治体の地域公共交通計画を見てもよく並ぶような言葉だ。

 さて、本連載の中心であるヨーロッパにさっそく話題を移そう。場所はイタリアの最北部に位置するトレンティーノ=アルト・アディジェ州である。

 第一次世界大戦の戦後処理で当時のオーストリア=ハンガリー帝国からイタリアに併合された地域だ。この歴史的経緯から、州の北半分にあたるボルツァーノ自治県では今でもドイツ語がイタリア語と並んで公用語であり、ドイツ語が母国語の住民も多い。

 歴史的には南チロルと呼ばれた地域で、ドイツ語では今でもそのように呼ぶ。チロルの北側半分は今でもオーストリア領である。

フィンシュガウの位置。Eurostatデータを基に著者作成フィンシュガウの位置。Eurostatデータを基に著者作成
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 その南チロルには驚くべきローカル線がある。1906年に開業して1991年にいったん廃線となったが、大幅なテコ入れを経て2005年に再開したら、一日あたりの乗客が約270人から約7400人へと約27倍に増えたという路線である。

 輸送密度の数字は公開されていないが、控えめに見積もって90程度であったものが2500くらいまで増えたということである。同じローカル線なのにこんなに違うとは驚くべき増え方であるが、いったい何を「総動員」してどう「リ・デザイン」して、鉄道を「再構築」したのだろうか。

 今回の前編、そして中編では、その再構築の内容を詳しく見ていきたい。