バスを降りたらすぐホーム

 どんなにダイヤが便利で車両が快適でも、わずか6万人という限られた人口のエリアで公共交通機関同士が競争しては、お互い共倒れとなる。

 フィンシュガウでは、川の支流沿いの谷から出てくるバスは、そのままメランの町まで直行するのが従来の路線網であった。しかし、それでは谷沿いで鉄道とバスで乗客の取り合いとなる。鉄道の再開にあわせて、支流沿いからのバスを再編してすべて鉄道に接続するようにし、並行するバスは鉄道でカバーできない場所の離れた集落を通るもの以外は基本的に廃止した。

 しかしこれまで直通していたサービスが乗り換えとなると、乗客には不便を強いることにもなる。その不便の一側面は運賃である。鉄道とバスを乗り継いだ結果、初乗り運賃を2度払って割高になるようでは、乗客や住民の支持を得られないのは当たり前である。

 州内の公共交通の運賃を統合して、鉄道であろうがバスであろうが、運賃は起点から終点までの距離にだけ比例して決まるよう完全に改定した。また住民向けのポストペイ方式のICカード乗車券を導入した。

 これはICカードを使う点は日本の交通系ICカードと似ているが、事前にチャージするのではなく銀行口座を登録しておく。乗降時にタッチすると乗った区間が記録されていき、毎月の乗車分が清算されて後から料金がまとめて引き落とされる仕組みである。

 購入時に車体代金をまとめて支払い、ガソリン代も給油時にまとめて払う自動車と異なり、公共交通は基本的に毎回きっぷを買うたびにお金を払う。たとえ少額でも毎回支払うという行為自体が費用負担感を増大させるが、ポストペイ方式によってそれを緩和している。

 しかも、年初からの公共交通に乗った総距離に応じて段階的にキロ当たり単価が安くなるよう料金が設定されている。累計乗車距離が2万キロを超えると年内は追加料金がかからない。これによって多く利用する人を優遇しつつ、日常の利用を誘導している。なおこの改定が行われたのは鉄道の再開からやや遅れて2012年であり、県全体で一括で行われた。

 バスと鉄道の乗り継ぎの不便のもう一つは駅である。バスから降りて駅前広場をぐるりとまわって、そこから改札を通ってエレベーターに乗って跨線橋をわたって 、またエレベーターでホームに降りる、といった動線では、乗り換えはかなり煩わしい。

 しかしバスを降りたら目の前に列車がいるとしたら、煩わしさはかなり軽減される。

 フィンシュガウ鉄道では改札を廃して駅への出入りを自由にできるようにしたうえで、駅前広場から建物を通らずホームに直接入れるようにバスを直接ホームにつけたり、駅舎を通る場合でも最短の動線で乗り換えられるようにしたりしている。

終点のマレス駅はバスと対面で乗り換えができるようになっている終点のマレス駅はバスと対面で乗り換えができるようになっている
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