いきなり乗客100万人

 後述するように県の主導で路線や駅の大改良がおこなわれて、車両も新調された。

 営業が再開したのは2005年5月5日である。初年は7か月弱の期間で50万人が利用すれば上々とみられていたが、ふたを開けてみたら倍の100万人。その後も利用者は増え続け、2009年には年間270万人となった。

 輸送密度2500程度というのはこの数字から上と同じ仮定をして計算した結果であるが、もはや廃止など話題にすらならない水準で、むしろ輸送力不足が問題になっているくらいである。

 平日のみ1日3本の路線をそのまま再開したわけではないことは言うまでもないが、一体どのような「再構築」と「リ・デザイン」を行ったのだろうか。本稿、そして中編では、それを丹念に見ていこう。

新車導入で乗り心地・車窓の眺望も抜群

 まずは基本となる鉄道サービスの水準である。朝から晩まで1時間おきに各駅停車が走り、さらに快速列車が2時間おきに走るダイヤとした。

 また廃線直前は、起点となるメラン駅では別の路線との接続など考慮されておらず、フィンシュガウ鉄道の列車の発車直後に別の路線の列車が到着するひどいダイヤだったそうだが、これを改めて必ず無理なく短時間で乗り換えられるダイヤ設定にした。

 車両も真新しいものに完全に入れ替えた。車両自体はスイスのメーカーの標準型の気動車であるが、アルプスの山並みの眺望を楽しめる大きな窓、エルゴノミクスの設計がしっかりした快適な座席、車いす対応の大型トイレ、自転車やベビーカーを積載できる開放型の多目的スペース、そしてホームと段差なく乗り降りできる低床であることがウリである。

 コスト縮減のために他所から中古車を買ってくる案もあったそうだが、それでは必要なサービス品質を満たせないとの判断からあえてコストをかけて新車を導入した。

 また外観もアルプスの山並みに映えるカラフルさと落ち着きを兼ね備えたデザインである。座席もグレーを基調とした落ち着いた色だが、いたずら防止に効果がある色合いにしたという。冷暖房ももちろん完備である。

 日本のローカル線に乗ると、旧国鉄時代からの50年選手かと思うようなレトロな気動車に出くわすことが今でもあるが、乗り心地や車内の快適性はそれとは全く異なる水準である。