単純ではない理由、グラフで一目瞭然
実際、このように思っている方も世の中には実はかなりの数いるのではないか、というのが筆者の感覚である。
しかし、交通分野で二酸化炭素排出をゼロにするのは、それほど単純なものではない。一つには、電気や水素がどこからやってくるのかという問題がある。
風力や水力、太陽光などの再生可能エネルギーで電力をすべてまかなう場合はともかくも、化石燃料を使う発電方式が未だに多いのが現状である。日本の現在の電源構成には火力発電所が大きな役割を果たしている。
先述の白書を見ると、日本の電源構成は、液化天然ガス(LNG)が33.8%、石炭が30.8%、石油等が8.2%もあり、化石燃料だけで全体の発電量の4分の3弱にあたる72.8%も占めるのである(第2部第1章第4節の1)。
火力発電はエジソンの時代からの発電方式だ。石炭やガスなどの化石燃料の燃焼エネルギーで水蒸気をつくり、これでタービンを回して発電するというのが最も基本となる原理である。その性質上、化石燃料の消費が欠かせず、大量の温室効果ガスの排出につながる。これで電気自動車を走らせたり水素を製造したりしていては、カーボンニュートラルなど元も子もない。
原子力発電は核分裂のエネルギーで水蒸気をつくりタービンを回すのが基本原理で、発電からは温室効果ガスこそ排出しないが、福島第一原子力発電所の事故を経て、既存の発電所を再稼働するかどうかが主な論点である。
電気自動車や水素製造のために大幅に増設するというのは現実的な選択肢には思われないし、2040年を過ぎたあたりから、耐用年数との関連で発電容量が大幅に減っていくという見通しもある(地球環境産業技術研究機構の資料)。
では水素はどうだろうか。水素の調達方法は、水を電気分解するのが一つの方法である。これを通称「グリーン」な水素と呼ぶのだが、電気分解には大量の電力が必要で、上記の電源に関連する問題がついて回る。
天然ガスや褐炭など化石燃料から水素を製造する方法もあるが、改質して製造する「グレー」な水素では製造過程で二酸化炭素を排出してしまい、こちらもカーボンニュートラルの観点からは元も子もない。
製造過程で二酸化炭素を回収しながら改質する「ブルー」な水素も提唱されているが、二酸化炭素の回収・貯留の技術的な見通しもまだ確たるものとは言い難いし、コスト高になりそうだ。いずれにせよ「ブルー」でも「グレー」でも、化石燃料に依存する点は変わらない。