国内線の需要はコロナ前の水準を回復したが…(写真:アフロ)

1953年10月に日本航空株式会社法に基づく特殊会社として日本航空株式会社が発足してからまもなく70年となる(前身となる旧・日本航空株式会社は1951年に創立)。2010年に経営破綻するなど紆余曲折があったJALは、2020年に発生したコロナ禍からようやく立ち直りつつあるようにみえる。だが、筆者は最近のJALについて危うさを感じている。運航の質低下や本業以外への投資拡大などが目につくからだ。かつて本業以外に手を広げ過ぎて事故も多発し、経営破綻に至った歴史を知っている1人としては「いつか来た道」を思い出す。そのような気持ちにさせるいくつかの例を挙げてみたい。

(杉江 弘:航空評論家、元日本航空機長)

燃料不足で「緊急事態」を宣言

 まずは運航の質低下についてだが、コスト削減意識が過剰となっているためか、航空機の搭載燃料が少なすぎることによるトラブルを引き起こしている。

 7月12日、羽田空港から函館空港に向ったJAL585便が、目的地の視界不良で2度着陸をトライした後に代替空港である新千歳空港へ目的地を変更した。その際、着陸前に管制官に残っている燃料がわずかだとして「緊急事態」を宣言した。

 幸い、無事着陸はできたが、この宣言が出された場合、管制官は当該機を優先着陸させる。他の航空機は上空に待機することとなり、消防車も出動する。

 当該フライトの経緯を調べたところ、函館空港の天候不良が事前に分っていたのに搭載した燃料が少なすぎたようだ。函館空港で2度、滑走路への進入を試みた後、新千歳空港へ向かう時点で緊急事態を宣言するほどの事態になるとは、長年、JALでパイロットをしてきた筆者の目からすると異常なことである。搭乗前のパイロットの判断に首をかしげざるをえない。

 当便は、機長の審査をする査察機長を含め3人の機長が搭乗していたが、残燃料への意識が不足していたようだ。少なくとも、函館空港に1度目の進入で着陸できなかった時点で、すぐに新千歳空港に向かうべきであった。(着陸をやり直す)ゴーアラウンドには大量の燃料を消費するからだ。

 航空機に搭載する燃料の最低量は飛行形態によって違い、それは運航規定で定められている。これは国土交通省によって認可されているものだ。JALでは、着陸時点になお30分飛行できるだけの燃料が残っていなければならないが、585便は結果的にそれができなかった。