国連の「世界幸福度ランキング」で7年連続1位のフィンランドが、スタートアップの活躍が目覚ましいことから「ヨーロッパのシリコンバレー」と呼ばれることに象徴されるように、ウェルビーイングとイノベーションが両立する地域として注目を集める北欧。
日本より高い生産性で、イノベーションにも熱心な北欧経済を支える「働き方」とはどのようなものだろうか。明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科教授の野田稔氏が語った生産性を高める北欧流「働き方」の秘密についてお届けする。
1時間でまとまった企画、効率的な議論の背景は
野田氏は、北欧企業に興味を持ったきっかけについてこう振り返る。
1990年代前半、野田氏はあるコンサルティングのプロジェクトで北欧、スウェーデンのストックホルムの企業を訪れた。無味乾燥で機能的な会議室に通されると思いきや、通されたのはこぢんまりとした木の香りの漂う非常に居心地の良い部屋。
イーゼルパッドと数脚の木の椅子が置かれていて、すでに数人の男女がそこで待っていた。皆にこやかに、しかしあいさつで長々と時間を使うことはなく、いきなり本題に入った。
野田氏がスウェーデンを訪れたのは幹部社員の研修企画の依頼だったが、皆が活発に意見を言い、そのうち「では話をまとめましょう」とイーゼルパッド(壁やクロスに張り書き込める模造紙)にマトリクスを書いてまとめる人が現れた。素早く話は進み、わずか1時間で企画は固まり、コーヒーブレークに入った。
「これを日本でやると、とてもそんな短時間では終わりません。企業側からまとまりのないさまざまなオーダーが出て、コンサルのわれわれが一生懸命それをメモに書き留める。1時間半ほどたったところで『議論をまとめましょう』とホワイトボードに書けば書いたで、『それは違う』と言う人が現れ、話がまたあちこちに飛ぶ。結果、2時間たったころに『分かりました。では皆さんのご要望を持ち帰り、後日お持ちいたします』となるのが常です」(野田氏)。
思わず、コーヒーブレークの際に「とても効率的な議論でした。もしかして皆さんMBAをお持ちなのですか?」と野田氏は聞いた。すると「MBAなんてものは不器用なアメリカ人が学ぶものだよ。われわれは高校卒業前に会議の進め方や問題解決技法を習得する。だからMBAなんていらないんだ」と相手は言った。
野田氏は、その言葉に驚いた。この効率性は学生の頃からたたき込まれているものなのだ。そこから北欧企業に興味を持った野田氏は次のように語る。
「当時は北欧の経済力というのはそれほど強くありませんでした。まだ日本が強かった時代でしたが、その後あっという間に北欧の国が1人当たりGDPでも幸福度指数でも日本を抜いていきました。そこでやはり北欧の働き方は学ぶべきものがあると気付きました」