ドアツードアの離着陸が難しい日本における「手っ取り早い需要」
顧客にとってサービスが魅力的に映るかだが、これも現時点では何とも言えない。成田と羽田をまたぐ国際線の乗り継ぎ需要は極めて少ないが、所要時間が離着陸を含めて30分程度で済むのは魅力的ではある。
だが、それよりは富裕層向けに東京の空を遊覧飛行するサービスを行った方がよほど付加価値が高いのではないかと思われるのも確かだ。とりあえず商用運行をやりやすい空港間でサービスをスタートさせることが第一義なのだろう。
問題はその先である。エアモビリティに期待される移動しにくい2地点間の迅速な移動が可能になるのはいつかということになると、これは社会的ニーズがどのくらいあるか、またそのサービスにどのくらいの費用を払っていいとユーザーが思うかにかかっている。

eVTOLの離着陸は“空飛ぶクルマ”といううたい文句ほど簡単ではない。小学校の運動場くらいの広さは必要であるし、高層ビルの屋上の非常用ヘリ着陸ポイントを簡単に使えるわけでもない。膨大なコストをかけて離着陸場をマルチポイントで整備してもなお、クルマのようにドアツードアとは到底いかないのだ。
日本のように企業や官公庁のヘッドクオーターが大都市に集中し、郊外への分散度合いが極めて低い国にはエアモビリティはあまり合っていない。そんな中で手っ取り早い需要があるとすれば前述の遊覧飛行、あるいは大企業のVIPを会社から空港に直接運ぶチャーター需要くらいではないか。
いずれにせよエアモビリティは生まれたばかり。万博でとりあえずデモフライトにこぎつけられたのはいいとして、次の一手をどう打つかが重要で、その行方に注目したい。

【井元康一郎(いもと・こういちろう)】
1967年鹿児島生まれ。立教大学卒業後、経済誌記者を経て独立。自然科学、宇宙航空、自動車、エネルギー、重工業、映画、楽器、音楽などの分野を取材するジャーナリスト。著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。