140円台前半に触れた円相場だが、ここに来て再び1ドル148円台と円安が進んでいる(写真:共同通信)
  • 新たな少額投資非課税制度(NISA)に伴う「家計の円売り」が円安を促しているという論調を否定した鈴木財務相。
  • その発言自体は正しいが、東日本大震災後「損保のレパトリ」で円高が急伸したように、事実以上に、皆がそう思っているかどうかで動くのが為替市場である。
  • 損保のレパトリは噂に過ぎなかったが、家計の円売りは実際に存在する。今の円安を止めるのは、米国の利下げ観測ぐらいしかない状況だ。

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

 1月19日、鈴木財務相は新たな少額投資非課税制度(NISA)に伴う「家計の円売り」が円安を促しているという論調に対し、「新しいNISAだけに変動要因を求めるということは困難」との見方を示した。

 家計の投資行動に絡んでは、「分散投資の観点から国内資産のみならず海外資産への投資が増加していることは認識している」と述べ、為替市場は「国内外の経済、財政状況、国際収支、金融政策の動向、投資家の予測やセンチメントなど様々な要因で決定される」との見方も示している。

 こうした鈴木財務相の発言は正しい。筆者は新NISAに伴う「家計の円売り」規模について、本稿執筆時点で入手可能な情報に基づいて「7~9兆円」程度と試算するが、それは為替市場の潮流を決するほどの数字とは言えない。

 ただ、為替市場にとって重要なことは「皆がそう思っているかどうか」だ。ケインズが株式市場を美人投票に例えたのは有名な話だが、為替市場も同じだ。むしろ、ある面では株式市場よりも直情的な性質を備えた為替市場では「皆がそう思っているかどうか」は重要なポイントになる。

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 東日本大震災時の円高がまさに典型例だ。