「骨太の方針」で資産運用立国を唱えた政府だが、そのリスクについては議論しているのか(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
  • 政府は「骨太の方針」で2000兆円の家計金融資産を開放し、持続的成長に貢献する「資産運用立国」を実現すべきだと唱えている。
  • だが、2000兆円の家計金融資産は95%が円建てである。その数%が外貨建て資産にシフトすれば、強烈な円安圧力になる。
  • 善悪は別にして、日本では「民間銀行-政府部門-日本銀行」が三位一体となって国債を消化してきた。その構造を揺さぶったとして、銀行部門に代わる国債の購入主体はいるのか。

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

家計金融資産の「開放」を目指す政府

 政府は6月7日、2023年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の原案を公表している。新型コロナウイルス対策を筆頭に、有事で膨らんだ財政出動を平時に戻すことがクローズアップされているものの、原案では以下のような言及も目を引いた。

 2000兆円の家計金融資産を開放し、持続的成長に貢献する「資産運用立国」を実現する。そのためには、家計の賃金所得とともに、金融資産所得を拡大することが重要であり<中略>これらによる家計所得の増大と併せて、持続可能な社会保障制度の構築、少子化対策・こども政策の抜本強化、質の高い公教育の再生等に取り組むことを通じ、分厚い中間層を復活させ、格差の拡大と固定化による社会の分断を回避し、持続可能な経済社会の実現につなげる。

 しかし、「2000兆円の家計金融資産を開放」することの功罪は慎重に吟味する必要がある。

 家計金融資産の開放にまつわる懸念は主に二つあると筆者は考えている。第一に為替、第二に金利への懸念である。

 前者は以前の寄稿『日本を直撃する真の円安リスク「家計の円売り」は本当に起きるか? 円の購買力が落ちる中、「弱い円」から「強い外貨」にシフトする必然』でも詳しく議論しているので、今回は詳述を避けるが、「現状、95%以上が円建て資産で構成される2000兆円の数%でも外貨建て資産へシフトすれば大変な円安圧力を生む」という懸念である。

日本を直撃する真の円安リスク「家計の円売り」は本当に起きるか? 円の購買力が落ちる中、「弱い円」から「強い外貨」にシフトする必然

 例えば、2022年末時点で日本の家計は約1110兆円の現預金(円建て)を保有している。この10%が「強い外貨」に移ろうとするだけでも110兆円規模の円売りが起きる。これは2022年の経常黒字の約10倍に相当する規模だ。

 2022年に直面した円安は社会問題化するほどの震度だったものの、家計金融資産が外貨建て資産に向けて開放されたわけではなかった。

 仮に、家計部門がリスク許容度を高め、国内から海外へ本格的に目を向けた場合、どれほどの円安相場が実現し、また、それが輸入物価上昇を通じてどれほど日本経済の足枷になってくるのかという問題意識は抱いて当然である。

「安い日本」を象徴する出来事は枚挙に暇がなく、そのような社会情勢から自国通貨の脆弱性を懸念し、外貨建て資産に関心を持つ層は今後増える可能性が高い。

 その上で、政策的にも「貯蓄から投資へ」を声高に叫べば、余計にその雰囲気は強まる恐れがある。日本人は合理性よりも「皆がやっているからやる」という空気で一気呵成に動く傾向があるため、要注意である。

 今回取り上げたいのは為替に次ぐ第二の懸念である円金利への影響だ。