コロナに伴う入国制限が撤廃されたことで、日本を訪れる外国人観光客が増加している。このゴールデンウィークに、インバウンドの増加を体感した人も多いのではないだろうか。もっとも、日本経済の現状を見れば、インバウンドの増加を単純に喜んでもいられないのも事実だ。みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト、唐鎌大輔氏がインバウンド増加の功罪を解説する。
(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)
訪日外国人観光客(インバウンド)需要の復活が世間の耳目を引き始めている。1~3月期を終えたところでの旅行収支黒字は+7408億円と、四半期の黒字としては2019年4~6月期以来、15期ぶりの水準まで回復している。
鎖国政策の真っ只中だったので参考にはならないが、2022年1~3月期の旅行収支黒字が+433億円だったことを思えば、1年で景色がかなり変わっていることが分かる。訪日外客数の水準で見て、ようやくパンデミック前の水準が視野に入ってきた状況だ(図表①)。
【図表①】
例年4~7月がインバウンド需要のピークであることを踏まえれば、4月以降の数字はさらに顕著な改善を示すはずだ。これを日本経済の追い風にすべきという論調も、ますます強まってくるだろう。
しかし、物事には功罪がある。製造業の海外生産が進む中、望む、望まないにかかわらず、日本が能動的に外貨を稼ぐことができる経路はもはや旅行収支くらいしかない。よって、それを日本経済の追い風と見なすような論調は何も間違っていないし、その流れを止めることもできない。
旅行収支などから構成されるサービス収支は、買い戻しや売り戻しの条件をつけないアウトライトの為替売買を含むので、旅行収支の黒字拡大は過度な円安を抑制する効果を持つ。インバウンドが日本を周遊することで、旅行収支以上に日本経済に対する前向きな効果もあるだろう。
日本人の人口が減る以上、外国人の財布に頼るのは合理的な政策である。それが訪日外国人消費動向調査や国際収支統計における旅行収支に反映され、この一部分だけを切り取り、ポジティブなニュースとして報じられることも間違いではない。
ただ、少しずつネガティブな側面を感じつつある向きもあるのではないか。今回はそこに焦点を当てたい。