直接投資収益を現地の工場やM&Aなどで再投資する比率は上昇している。写真はトヨタ自動車の米ミシシッピ工場(写真:AP/アフロ)
  • 財務省の「本邦対外資産負債残高の状況(2022年末時点)」を見ると、対外純資産残高は前年比7204億円増の418兆6285億円と5年連続で増加した。対外純資産残高は32年連続で世界最大である。
  • だが、内訳を見ると、直接投資が54.6%と過去最高を記録する一方、証券投資は17.5%と1999年以来、23年ぶりの低い比率である。
  • 対外直接投資は基本的に日本に戻ってこない円。対外純資産は増加しているが、日本に還流する円の割合はどんどん減少している。それが構造的な円安の背景にある。

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

海外有価証券の評価損を円安で吸収

 5月26日に財務省が公表した「本邦対外資産負債残高の状況(2022年末時点)」。毎年、この統計で確認される「世界最大の対外純資産国」というステータスが「安全資産としての円」のよりどころになっているのは、ある程度間違いない。

 昨年来、「弱い円」ひいては円の信認という論点に注目が集まっていることを思えば、これを詳しく分析する価値は決して小さくないだろう。結論から言えば、その中身を見るほど、脆弱性を増している近年の円相場の実情が透けて見える。

 具体的に数字に目をやると、日本の企業や政府、個人が海外に持つ資産から負債を引いた対外純資産残高は、前年比7204億円増の418兆6285億円と5年連続で増加した(以下、特に断らない限り前年比で議論、図表①)。これで、32年連続「世界最大の対外純資産国」のステータスを維持したことになる。

 なお、あれほどの円安が進んだにもかかわらず7200億円程度しか増えていないのは、対外証券投資の価格変動が極めて大きなものだったからだ。

【図表①】


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 より詳しく見て行こう。

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