インバウンドで稼ぎ始めた日本だが、それ以上の勢いで資金が流出している(写真:西村尚己/アフロ)
  • サービス収支赤字の大きな部分を占めるデジタル関連赤字だが、もう一つ無視できないサービス収支の赤字要因がある。それは、カネ関連赤字である。
  • カネ関連赤字とは、保険・年金サービスと金融サービスに伴う取引の収支。その中でも、再保険・貨物保険の損害保険料などで構成される保険・年金サービスの赤字が拡大している。
  • その背景にあるのは、国内の金融機関がこぞって販売した外貨建て変額保険・変額個人年金保険の存在である。リスクを抑制するため、海外の再保険引受会社と再保険契約を結ぶケースが増えているのだ。

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

カネ関連収支赤字とは何か

 前回の寄稿『デジタル赤字だけではない「もう一つの赤字」が食いつぶすインバウンドの黒字』では、話題になりやすい旅行収支の黒字やデジタル関連収支の赤字はもちろん重要だが、カネ関連収支の赤字も決して無視できない「伏兵」になっている現状を論じた。

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 この点、もっと掘り下げて欲しいという声もあるため、改めて筆を執った。

 サービス収支をモノ関連収支・ヒト関連収支・デジタル関連収支・カネ関連収支・その他の5分類で見た場合(※この分類方法は2023年8月の日銀レビュー『国際収支統計からみたサービス取引のグローバル化』に依拠している)、遡及可能な2014年以降の8年間の変化は、①ヒト関連収支の黒字が拡大したこと、②デジタル関連収支の赤字が拡大したこと、そして③カネ関連収支の赤字が拡大したことの3点に集約される(図表①)。

【図表①】


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 ①は旅行収支の受払を、②は通信・コンピューター・情報サービスを筆頭とする各種デジタルサービスの受払を反映した結果である。①や②については本コラムでも繰り返し論じてきたものだ。

 だが、③のカネ関連収支はまだ世の中でも馴染みの薄い論点と思われる。③はどのようなサービス取引を反映した結果なのだろうか。