- 政府が旗を振る資産倍増計画。2024年には、NISAの拡充やiDeCoの改革など「貯蓄から投資」を推し進める施策が始まる。
- だが、外貨建ての金融資産に注目する個人投資家が増えている今、「貯蓄から投資」の奔流は継続的な円売り圧力になる。
- 2024年は「資産運用立国」元年となるが、同時に「円売り」元年となる可能性を秘めている。想定外の円安リスクも想定すべきだ。
(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)
「家計の円売り」の登竜門となる外貨預金
円安相場はピークアウトの兆しを見せているものの、依然として円の名目価値は大きく棄損した状態が続いている。こうした状況が家計部門の運用行動に与える影響は決して小さくないだろう。
過去の寄稿「日本経済に埋め込まれている巨大な円売り余地、炸裂すれば今以上のインフレに」では、政府が旗振りする資産運用立国の旗印の下、「家計の円売り」が盛り上がる展開こそが為替市場、ひいては日本経済にとって最大のリスクと議論した。
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2023年6月末現在、約1100兆円存在する現預金(除く外貨預金)のうち、10%でも外貨に向かえば110兆円の円売りにつながる。これは当然円安に直結する話だ。
また、民間銀行部門の保有する現預金が日銀当座預金を介して国債消化につながっている現状があるのだから、「家計の円売り」は円金利にとってもリスクを帯びる話である。
だが、そうしたリスクが指摘されながら、政府の旗振りも手伝い、今や資産運用を指南するような新聞・雑誌の特集は目にしない日がない。
資産運用と円相場の関係性に着目した取材や照会も増えている。
例えば、11月3日付の日本経済新聞では『ドル定期預金の魅力増す 1年6%も、手数料に注意』と題し、国内主要行の外貨預金金利が軒並み高い水準にあることや、それにまつわるリスクが紹介されていた。
日経新聞でこれほど大々的に「高金利の預金」が紹介されれば、食指を動かした層もいるかもしれない。