北欧が脆弱な立場の難民を受け入れる事情
橋本:北欧では、むしろ病気や障害を持っている人、孤児、高齢の人など、特に脆弱な立場の難民専用の受け入れ枠が設けられています。
なぜ北欧の国々がそうした慈善的な難民救済を続けてきたのか、私も現地を訪れ、関係者に聞いて回りましたが、皆さん、うまく説明できないというか、「それがずっとあたり前だった」と多くの方が答えました。
「国のアイデンティティの一部に人道主義が組み込まれている」と答えた人もいました。また、難民の受け入れは国連とのタイアップですから、多国間協力外交を大切にしているとも聞きました。
例えば、家族に深刻な病気を抱えた人がいて、ノルウェーが家族ごと引き受けて救ってくれたとすれば、その人の家族や子どもたちはノルウェーのために一生何でもやりますよね。ヘンな言い方ですが、ある意味で「恩を売る」というか、強い助け合いの絆が生まれる。
やはり国家ですから、全部チャリティー精神だけではできません。先進国はどこも少子高齢化が進んでいます。そんな中で、その国のために頑張ってくれる若者を受け入れていくのは、その国にとっては国益のためにもなるのです。
一方、アメリカは個人が自力で頑張って理想的な生活を手に入れる国です。ですから、特にエリートの難民などはアメリカに行きたがる傾向があります。でも、エリートがアメリカに行ったからといって、必ずチャンスを掴めるというわけではありません。
これは実際にあったケースですが、バグダッド大学で有名な物理学教授が難民になり、アメリカが引き受けました。ただ、彼は英語が堪能ではなく、すぐにアメリカで大学のポストを得ることができませんでした。
結局、肉体労働の仕事しか見つからず、彼は精神を病んでアメリカを去りました。本国で超エリートだった方が、必ずしもいわゆる先進国で馴染めるわけではない。これが「第三国定住」をやってきた国々の知見としてあります。
対照的に本国では十分な教育の機会が与えられなかった人が難民として外国に受け入れられた結果、必死に現地語を学び、仕事を選ばずに頑張り、キャリアを築いて幸せな人生を送るケースもあります。
ですから、いわゆる弱者と言われる方々だから、行った先で苦労するかというと必ずしもそうではありません。意外と立場がひっくり返ることもあるのです。