
(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)
2024年暮れ、ある小惑星が天文研究者の注意を引きました。「2024 YR4」という記号を与えられたこの岩の塊は、直径40〜90 m、つまり10〜20階のビルほどの大きさです。注目すべきはその軌道で、8年後の2032年12月22日に1%の確率で地球に衝突すると計算されました。このサイズの小惑星がもしも地球に衝突すると、マグニチュード8の巨大地震に相当するエネルギーが発生します。都市に落ちればメガトン級の核爆弾と同程度の破壊をもたらし、海に落ちれば津波が沿岸に押し寄せるでしょう。
観測を重ねると、軌道計算の精度は向上します。発見後、2024 YR4の衝突確率は一時期3%まで上昇し、人々を興奮させ、メディアでも話題になりました。が、その後は徐々に確率が下がり、記事執筆時点では0.04%以下です(※1)。おそらく2024 YR4が2032年に脅威となることはないでしょう。ちょっとドッキリさせられた宇宙のできごとでした。
しかし宇宙にはこうした岩の塊が星の数より多く浮いています。2024 YR4はうまくかわしたとしても、次に投げつけられるビーンボールは命中するかもしれません。そうした大当たりが6500万年前に起きて、恐竜を絶滅させたと考えられています。そう聞くとなんだか不安になるでしょうか。
けれども実は筆者はそういう心配をしていません。今回たまたま2024 YR4は軌道が逸れましたが、仮にその軌道が地球命中コースだったとしても、2032年までにその軌道を人為的に変えることが、ぎりぎり可能だったんじゃないかなと思います。人類はすでに、隕石衝突による大絶滅を防ぐテクノロジーを開発済みといってよいのです。
隕石衝突の可能性と、2022年に行われた、天体の軌道を変える実験について紹介しましょう。
2024 YR4はどれほど危険だったか
今回見つかった小惑星2024 YR4は、4年の周期で太陽を周回しています。その軌道は楕円で、太陽から最も離れる時には火星軌道と木星軌道の間まで行き、最も太陽に近づく際には地球軌道の内側まで来ます。ということは、ときおり地球や火星に接近するということです。ということは、地球や火星に衝突する可能性があるということです。
2024 YR4のような、地球軌道の近くを通る小惑星は、「地球接近小惑星(Near-Earth Asteroid;NEA)」と呼ばれます。小惑星以外の彗星なども含めて「地球接近天体(Near-Earth Object;NEO)」といういいかたもします。これらは地球に将来ぶつかるかもしれない天体です。
小惑星2024 YR4は2024年12月25日に地球に近づき、この時の距離は約83万kmでした。小惑星にしてはけっこう近いです。地球に近い小惑星は明るく見えるので、この際に望遠鏡によって発見されました。
小惑星2024 YR4の公転周期はほぼきっかり4年で、地球が4回太陽を周回すると2024 YR4は1回周回して、両者は2028年12月17日に再び接近します。この再会時には最も近づいた瞬間でも数百万kmの距離があるのですが、そのさらに4年後の2032年12月22日には、もっとずっと接近すると見積もられています。
接近時の速度は正確に分かっていて、秒速17.27 kmという宇宙的猛スピードです。当たると嫌ですが、前述のとおり、その可能性は非常に低くなりました。