(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)
2024年7月23日22時4分、突如としてテレビ朝日の放送に異変がおきました。地上波はCMが流れなくなり、BS放送は停止しました。この現象は約2時間続き、そのあいだ視聴者は番組が観られず困惑したり、ハプニングを面白がったりしました。局内の大騒ぎが目に浮かぶようです。
テレビ放送が15分以上にわたって停止することは、放送法という法律で規定する「重大事故」にあたります。(「放送事故」という言葉は、「生放送中に予想外のできごとが起きた」というような意味でしばしば用いられますが、法律上は放送の停止を指します。)
放送事業者はそうした重大事故が起こらないように努める義務があり、もしも発生したら総務省に報告しなければなりません。総務省によると、そうした重大事故は2023年度には23件起きています(※1)。報告された原因は、電源の故障だとかルーターの故障だとか落雷だとか台風だとか、「⼊室権限のない関係者が演奏所に⽴ち⼊り、番組送出設備を停⽌」だとか、さまざまです。
事故から3カ月たった2024年11月8日、テレビ朝日は、障害の「原因を特定」したと発表しました(※2)。それによると、ネットワークスイッチという機器において「メモリーエラー」が発生したといいます。そしてこのメモリーエラーの原因については、設備メーカーから「中性子線の影響が原因であると判断」との報告があったといいます。
「中性子」とはいったいなにものでしょうか。それがどうして放送停止を引き起こすのでしょうか。そしてどうして7月23日の事故の原因が中性子だと判断できるのでしょうか。
・・・といった疑問がみなさんの脳裏に沸き起こったでしょうか。
実はこの発表を見て、放射線の知識があって中性子がなにものか知っている人でも、どうして中性子と判断できたのかという点には、首を傾げました。
では中性子とはいったいなにものか、この判断は本当に正しいのか、放射線検出器の開発に携わってきた筆者がそのサイエンスを解説しましょう。