(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)
ノーベル賞は秋の季語です。10月7日の生理学・医学賞を皮切りに、今年もノーベル賞が発表されました。
ノーベル物理学賞は機械学習の基礎原理の発見・発明に、化学賞はタンパク質の設計と、機械学習を利用したタンパク質の構造予測に授与されました。
この受賞に、研究業界の人々は衝撃を受けました。
機械学習というのは世間でおおざっぱに「AI」と呼ばれる技術の基礎で、つまりAIの基礎と応用がノーベル物理学賞と化学賞を獲ってしまったのです。しかも受賞者5人中3人がグーグルの関係者です。20世紀には誰も予想しなかった新展開です。
また、ノーベル賞は頑迷なほどの実験重視で知られています。いかに画期的で優れた理論研究であっても、実験によって実証されなければ、ノーベル賞が授与されることはまずありません。例えばブラックホールの「ホーキング放射」を理論的に導いたスティーブン・ホーキング教授は、ついにノーベル賞を受賞しませんでした。
それなのに今年のノーベル賞選考委員は、コンピューター科学という、他の分野から「あれは自然の法則を研究する学問ではない」とか「人間の作った問題を解いているにすぎない」とか「実在する物の理(ことわり)を研究するものではなく仮想科学だ」などと陰口を叩かれている分野に、両手(もろて)を挙げてサレンダーしてしまったかのようにみえます。
これは来たるべきAI時代の先触れでしょうか。今後のノーベル賞はどうなってしまうのでしょうか。どんどんAI関連の研究が賞を獲って(それはそう)、これまで科学の王道を自称してきた「正統派」物理学は凋落し、やがては隅に追いやられるのでしょうか。科学の観点から解説いたしましょう。