21世紀はノーベルAI学賞が新設される?

 ノーベル賞は、人類に大きな貢献をした者を表彰する目的をもって、1901年に創設され、以後(数回の中断はあるものの)120年以上にわたって、研究者や文学者や活動家などに授与されてきました。自然科学の分野では、生理学・医学と物理学と化学の3分野がノーベル賞の対象となっています。ノーベル賞が創設された当時、この分野が人類の利益に貢献著しい科学分野だということに、特に異論はなかったでしょう。

 しかし科学という営みは、進歩とともに、内容や重心が変化していくものです。19世紀は化学の時代と呼ばれましたが、20世紀は物理学の時代でした。1920年代に、ミクロな物体の物理法則である量子力学が発見され、物理学は予想外の跳躍を遂げました。化学は量子力学の手法なしでは成立しなくなり、ノーベル化学賞は量子力学の成果にも与えられるようになりました。

 また、周期表に未記載の新しい元素を発見することは、重要な科学的業績です。これは従来、例えば鉱石を溶かしたり分析したりするといった化学的手法が中心でしたが、20世紀には、粒子加速器で原子核を合成するという物理学的手法で行なわれるようになりました。

 つまり、科学の重心が化学から物理学へ移動したのです。

 量子力学と並んで、20世紀の科学を変えたもうひとつの発見があります。生物の遺伝情報がDNAという物質に記録されるしくみが判明したのです。DNAやそのしくみの研究は分子生物学と呼ばれ、たちまち人類の興味関心の中心となりました。生命の仕組みは精妙で意外で、分子生物学は次々と驚きの新発見を報告しました。ノーベル生理学・医学賞も化学賞も、分子生物学分野への授与を連発するようになりました。ノーベル分子生物学賞が必要な勢いです。

 さて2024年のノーベル賞は、物理学賞がAIの基礎原理に、化学賞がAIの応用に授与され、突如として3分野のうち2分野がAI研究に占められました。そして受賞者の背景には、AI研究をリードする巨大ソフトウェア企業グーグルの影が見えます。

 今回の授与はもしかしたら21世紀の科学を暗示しているのかもしれません。20世紀に化学から物理学へのシフトがあったように、今度は「科学の王道」物理学から、コンピューター科学あるいはいっそ「AI学」へ、科学の重心が移り変わっていくことの予兆なのかもしれません。20世紀の社会と生活を量子力学の応用製品(電子機器、レーザー、原子力、医薬品、・・・)が劇的に変えたように、今世紀はAIの応用製品が革新するのでしょう。

 21世紀のノーベル賞は、分子生物学とAI応用技術が次から次へと奪っていくと予想されます。かつてはIBMやベル研などのハードウェアメーカーが受賞者を輩出したように、グーグルなどのIT企業が常連となるでしょう。

「ノーベルAI学賞」あるいは「グーベル賞」が、新たな時代の賞として必要になるのかもしれません。

 今後の動向に注目です。