記者会見でタイレノールについて発言する、ロバート・F・ケネディ・ジュニア米国保健福祉長官。2025年9月22日(現地時間)、ホワイトハウスで。(写真:ロイター/アフロ)
目次

(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)

 2025年9月23日(日本時間)、米国トランプ大統領が「医療に関する歴史的な発表」をするといって会見を始めました。それを聞いて人々は唖然としました。

「タイレノール(鎮痛剤)と自閉症は関連がある」
「タイレノールを飲むな」
「キューバにはタイレノールがない。だから自閉症もない」

 これに対して、医療関係者は一斉に反論しました。

 国際保健機構WHOは、「妊娠期のアセトアミノフェン(タイレノールの有効成分)の使用と自閉スペクトラム症に関連があるという、信頼できる科学的な証拠はない」と声明を出しました(※1)。英国の医薬品・医療製品規制庁は「パラセタモール(アセトアミノフェン)は妊娠期に飲んでも安全です」と宣言しました(※2)。日本自閉スペクトラム学会も、「現段階でアセトアミノフェンが自閉スペクトラム症の原因として有力な候補であるエビデンスはありません」と声明を発表しています(※3)。ついでに述べると、キューバの自閉スペクトラム症の統計はアメリカと同程度だということも指摘されました。

 トランプ大統領の発言は科学的な根拠に基づくものはなく、「でたらめ」「妄言」と呼んでよいレベルです。強大な権限と影響力を持つ大統領が、市販薬を名指しで「飲むな」というのは、大変異例であり、大きな混乱を起こし、健康被害につながるおそれがあります。

 それにしても、トランプ大統領の発言はどこから出てきたものなのでしょうか。会見の脇に控えていたロバート・F・ケネディ・ジュニア米国保健福祉省長官は、ホワイトハウスの意思決定にどういう役割を果たしたのでしょうか。

 医療デマと長らく戦ってきた人たちは、この発言を聞いて、思い当たる節がありました。アメリカで広くはびこっている「伝統的」なニセ科学に、「ワクチンが自閉症の原因」という言説があります。アセトアミノフェンが自閉症の原因だという主張は、実はこのワクチン説から派生した変異株なのです。

 科学の捏造についての著書がある筆者が、トランプ大統領の発言を、ニセ科学の観点から解説しましょう。